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大学院セミナー

大学院での教育の一環として行われる大学院セミナーの記録です。大学院の学生が自身の行っている研究に関連した様々なトピックを紹介していきます。

キイロショウジョウバエにおけるmale choice -大きいメスは本当に好まれるのか?- 修士1年 網野海

2019/07/01 19:38 に Kai Amino が投稿   [ 2019/07/01 19:39 に更新しました ]

性選択において、メス側がオスの形質を選ぶことはよく知られているが、反対にオスがメスの形質を選り好みする場合があることも明らかになってきた。なかでも体サイズは繁殖能力をよく反映していると考えられ、実際に大きなメスの方がオスに好まれる結果を得たとする研究例が数多く存在する。しかし、真に正しい理解に至るためにはそれらの実験結果を注意深く検討することが大切である。今回のセミナーでは、「キイロショウジョウバエのオスは大きなメスを好むのか」という問題を例にとり、オスの選り好みの実態について考察する。

EdwardとChapmanは、オスに選ばれたメスが選ばれなかった方のメスに比べて多くの子孫を残すことを示した [1]。この結果は、キイロショウジョウバエにおいてもオスの選り好みが存在し、それが適応的に働いていることを示している。Longらが“ふるい”を用いて大きなオスと小さなメスを分けたところ、大きなメスほどオスから長く求愛された [2]。また、ByrneとRiceは幼虫期の密度を調節してサイズの異なるメスを作り出し、大きなメスが交尾相手として選ばれやすいことを報告した [3]。これらの結果は、予想通りオスがメスを体サイズで選り好みしており、大きいメスが好まれることを示している。

ところが、EdwardとChapmanが[3]と同様の実験を別の系統を用いて追試したところ、むしろ小さいメスの方がオスに好まれる結果となり [4]、遺伝的な背景によってオスの選り好みは変わりうることが示された。また、Balaban-FeldとValone [5]によれば、小さいメスと過ごした経験を持つオスは小さいメスを好む傾向があり、社会経験も影響していることが示唆される。このようにオスの好みはオス自身の諸要因に左右され、「大きなメスが好まれる」という普遍的な傾向は存在しないことになる。

また、Balaban-FeldとValoneがメスの行動の影響を排除するために断頭処理を施したところ、求愛時間, 交尾時間などにはオス個体ごとの一貫性があったにもかかわらず、メス体サイズへのオスの選り好みには一貫性が見られなかった [6]。この結果は、体サイズ以外にもオスの好みに影響を与えるメス側の要因が存在することを示している。実際に、Nandyらが体サイズに加えてメスの日齢も操作した実験を行ったところ、若く・大きいメスが好まれる結果を得たが、体サイズに対する選り好みは日齢に対するそれよりもずっと小さかった [7]。したがって、オスの選り好みが存在するとしても、メスの体サイズではなく、他の要素が果たす役割の方が大きいといえる。

改めて「大きなメスが好まれる」とした研究 [3]の結果を批判的に検討してみると、有意ではないものの交尾受容性は大きなメスの方が高かったり (必然的に大きなメスの交尾率が高くなる)、一回目の実験では十分な結果が得られず再実験を行ったりしており、顕著な選り好みがあったとは必ずしも言えない状況である。したがって、仮にキイロショウジョウバエのオスがメスを選り好みしているとしても、体サイズについて普遍的な好みはないと考えた方が妥当であろう。他の昆虫においても、オスの選り好みに肯定的な報告の方が目立ちやすいが、その結果は注意深く読み解く必要がある。


Reference

[1] Edward, D. A. and Chapman, T. (2012) ‘Measuring the Fitness Benefits of Male Mate Choice in Drosophila melanogaster’, Evolution, 66(8), pp. 26462653.

[2] Long, T. A. F. et al. (2009) ‘A Cost of Sexual Attractiveness to High-Fitness Females’, PLoS Biology, 7(12), p. e1000254.

[3] Byrne, P. G. and Rice, W. R. (2006) ‘Evidence for adaptive male mate choice in the fruit fly Drosophila melanogaster’, Proceedings of the Royal Society B, 273(1589), pp. 917922.

[4] Edward, D. A. and Chapman, T. (2013) ‘Variation in Male Mate Choice in Drosophila melanogaster’, PLoS ONE, 8(2), p. e56299.

[5] Balaban-Feld, J. and Valone, T. J. (2017) ‘Prior information and social experience influence male reproductive decisions’, Behavioral Ecology, 28(5), pp. 13761383.

[6] Balaban-Feld, J. and Valone, T. J. (2017) ‘Identifying individual male reproductive consistency in Drosophila melanogaster: The importance of controlling female behaviour’, Behavioural Processes, 142, pp. 8490.

[7] Nandy, B. et al. (2012) ‘Degree of adaptive male mate choice is positively correlated with female quality variance’, Scientific Reports, 2(1), p. 447.

どのようにしてキイロショウジョウバエはエサを見つけるのか ~採餌行動の全貌~ 修士2年 吉水敏城

2018/11/27 0:08 に Toshiki Yoshimizu が投稿   [ 2018/11/27 0:09 に更新しました ]

 動物は生き延び次世代を残すために、エサを食べ栄養とエネルギーを蓄える必要がある。動物がエサを探し、見つけ、獲得し、食べるという一連の行動は採餌行動 (foraging behavior) と呼ばれ、多くの動物で研究されている[1]。今回のセミナーでは、遺伝的操作が簡便で、行動が観察しやすいキイロショウジョウバエにおける採餌行動の研究を例に挙げ紹介する。

 採餌行動はまず、エサを見つけその場所にたどり着くことから始まる。Fryeら[2]とSaxenaら[3]それぞれの研究グループでは、キイロショウジョウバエが自由飛行下でどのように匂いへ向かうかを3次元トラッキングで明らかにした。その結果、背景が垂直方向の縞模様であり、匂い付近に目印がある場合、その匂いに最もたどり着きやすいことが分かった。つまり、匂いがあることはもちろんのこと、背景と目印もエサを見つけるのには重要な役割を果たしていたのである。続いて、エサ付近に降り立ったキイロショウジョウバエはエサまで辿り着かなければならない。Álvarez-Salvadoらは、風洞内でエサの匂いの有無でエサまでの行動がどう変化するか行動実験を行った[4]。エサの匂いがある場合は風上に向かって歩くが、匂いがなくなった途端、歩く速度遅くし風向に応じて歩く方向を変更していることが明らかになった。匂いと風向という別々の情報をうまく統合し行動に出力しているといえる。最後に、エサに辿り着いた後、どのような行動をするのだろうか。Corrales-Carvajalらはキイロショウジョウバエの栄養状態がエサを見つけた後の行動にどのように影響するのかを、食べさせたアミノ酸の量を変動させることで確認した。その結果、アミノ酸量が多くなるほど、他のエサに行く頻度が高くなり、逆にアミノ酸量が少ないと他のエサに行こうとするが元のエサに戻りそのエサを食べ続けるということが分かった。また、エサの探索と摂取は時々刻々と変化する内部の栄養状態とともにダイナミックに変動することも明らかになった[5]。Kimらは、一度エサを見つけたキイロショウジョウバエがどのようにしてもう一度エサにたどり着くのかをトラッキング行い行動を解析することで明らかにした。[6]。その結果、嗅覚と視覚を使わなくても元のエサに戻ってくることを発見した。これは、アリなどと同じように、自分がこれまでたどってきた経路を積算し、それに基づいて元の場所に戻る行動だと筆者たちは結論付けている。さらに、エサを探す行動はドーパミン作動性神経が関与し、ドーパミン受容体がエサを探す行動を制御することも明らかになっている[7]。

 以上のようにキイロショウジョウバエの採餌行動は、エサを見つけ、辿り着き、別のエサを探すまでの一連のプロセスが研究、解明されている。しかし、このプロセスが解明されているのは一個体においてであり、他個体がいる複合的な環境での採餌行動を適切に反映しているとは言い難い。他個体とのエサの奪い合いや、他個体がいることでエサが食べられるなどを想定した実験系が今後必要であると考えられ、そうすることで、採餌行動の生態学的な意義がより明確になってくるだろう。

[Reference]

[1]       P. M. Itskov and C. Ribeiro, “The dilemmas of the gourmet fly: the molecular and neuronal mechanisms of feeding and nutrient decision making in Drosophila.,” Front. Neurosci., vol. 7, p. 12, 2013.

[2]       M. A. Frye, M. Tarsitano, and M. H. Dickinson, “Odor localization requires visual feedback during free flight in Drosophila melanogaster.,” J. Exp. Biol., vol. 206, no. Pt 5, pp. 843–55, Mar. 2003.

[3]       N. Saxena, D. Natesan, and S. P. Sane, “Odor source localization in complex visual environments by fruit flies.,” J. Exp. Biol., vol. 221, no. Pt 2, p. jeb172023, Jan. 2018.

[4]       E. Álvarez-Salvado, A. M. Licata, E. G. Connor, M. K. McHugh, B. M. King, N. Stavropoulos, J. D. Victor, J. P. Crimaldi, and K. I. Nagel, “Elementary sensory-motor transformations underlying olfactory navigation in walking fruit-flies.,” Elife, vol. 7, Aug. 2018.

[5]       V. M. Corrales-Carvajal, A. A. Faisal, and C. Ribeiro, “Internal states drive nutrient homeostasis by modulating exploration-exploitation trade-off,” Elife, vol. 5, Oct. 2016.

[6]       I. S. Kim and M. H. Dickinson, “Idiothetic Path Integration in the Fruit Fly Drosophila melanogaster,” Curr. Biol., vol. 27, no. 15, p. 2227–2238.e3, Aug. 2017.

[7]       D. Landayan, D. S. Feldman, and F. W. Wolf, “Satiation state-dependent dopaminergic control of foraging in Drosophila,” Sci. Rep., vol. 8, no. 1, p. 5777, Dec. 2018.

“最強のオス”は存在するか? ~メスによる性選択とオス間闘争の二律背反~ 修士課程2年 安藤 優樹

2018/11/21 22:09 に Yuki Ando が投稿   [ 2018/11/21 22:12 に更新しました ]

多くの昆虫で縄張り行動が存在することは古くから知られている。このような種において、縄張り行動は性的に未成熟な若い成虫間に見られる。縄張りの防衛に成功したオスは、侵入者による干渉を最小限に抑えるとともにメスと交尾できる確率を上昇させると認識されてきた[1]。さらに2000年代に入ってからは、一部の双翅目昆虫において羽化してからの数日間をどのような環境で過ごしたかという条件そのものによっても交尾率が変動することが報告されている。Dukasらは、広さやエサの量、装飾などの条件を変えた複数のケージを用意し、ここで羽化直後のキイロショウジョウバエを数日間飼育して行動実験を行った。その結果、広い空間で過ごした個体ほど、オスでは交尾成功率が高く、メスでは長時間の求愛を受けることを発見した[2]。さらにFleischerらは、ミバエの一種Anastrepha ludensを用いた同様の実験により、オスは羽化後に過ごした空間の広さ、メスは産卵場所となる果実やそれをつける樹木の存在が交尾率を上昇させることを見出した[3]。さらに、Hingleらはシュモクバエの一種Cyrtodiopsis dalmanniを用いた実験で、質の良いエサを食べたメスは、それ以降そのようなエサが存在しなければ交尾をしにくくなることを発見した[4]

これらの研究例をみると、広くて良質なエサが手に入るような場所を縄張りとして確保できるオスは、交尾において極めて有利であると考えられる。では、縄張りを巡る闘争において有利な形質を持つオスは、そのまま交尾においても有利な、いわば“最強”の個体となり得るのだろうか?

 オスの闘争に関わる形質と交尾行動の関係についても、いくつかの昆虫において研究が行われている。Suzakiらは、ホソヘリカメムシRiptortus pedestrisにおいて、武器形質であるオス後脚のサイズと求愛行動の質や交尾率に負の相関があることを見出した[5][6]。またKiyoseらは、オオツノコクヌストモドキGnatocerus cornutusを用いた実験で、大きな大顎を持ち闘争に強いオスと交尾したメスは生涯産卵数や寿命が減少することを確認した[7]。さらにCandolinは、ミズムシ(水生カメムシ)の一種Sigara falleniにおいて、前脚の突起が小さいオスは闘争に強い反面交尾率が下がり、逆に突起が大きいオスは闘争に弱いもののメスに求愛を受け入れられやすいことを確認した[8]

 以上のことから、昆虫の世界には「闘争に打ち勝ち、良質な縄張りを獲得することで交尾しやすいメスと出会いやすくなる」「一方で、闘争に強いオスは交尾成功率が低くなる」という二律背反が存在することが窺える。これについてCandolinは、どのような形質が交尾に有利となるかは状況によって変わり、それゆえ種内の遺伝的多様性が維持されると説明している[8]

 しかし、これらの研究例では、全て闘争と求愛に使われる部位がそれぞれ独立している種で実験を行っていることに注意すべきだろう。すなわち、闘争と求愛を同一の部位で行う種においては縄張りの確保と交尾成功がより密接に結びついており、闘争の強さがそのまま交尾成功率の高さに直結することもあり得るということである。

闘争の強さと性選択の関係について実験を行う際は、研究対象としている種がどのような闘争と求愛を行うのかという基本的な性質について十分に理解しておかなくてはならない。

 

[references]

[1]       S. M. Fitzpatrick and W. G. Wellington, “Insect territoriality,” Can. J. Zool., vol. 61, no. 3, pp. 471–486, Mar. 1983.

[2]       R. Dukas and A. Ø. Mooers, “Environmental enrichment improves mating success in fruit flies,” Anim. Behav., vol. 66, no. 4, pp. 741–749, Oct. 2003.

[3]       F. Diaz-Fleischer, J. Arredondo, and M. Aluja, “Enriching early adult environment affects the copulation behaviour of a tephritid fly,” J. Exp. Biol., vol. 212, no. 13, pp. 2120–2127, Jul. 2009.

[4]       A. Hingle, K. Fowler, and A. Pomiankowski, “The effect of transient food stress on female mate preference in the stalk-eyed fly Cyrtodiopsis dalmanni.,” Proceedings. Biol. Sci., vol. 268, no. 1473, pp. 1239–44, Jun. 2001.

[5]       Y. Suzaki, M. Katsuki, T. Miyatake, and Y. Okada, “Male Courtship Behavior and Weapon Trait as Indicators of Indirect Benefit in the Bean Bug, Riptortus pedestris,” PLoS One, vol. 8, no. 12, p. e83278, Dec. 2013.

[6]       Y. Suzaki, M. Katsuki, T. Miyatake, and Y. Okada, “Relationships among male sexually selected traits in the bean bug, Riptortus pedestris (Heteroptera: Alydidae),” Entomol. Sci., vol. 18, no. 2, pp. 278–282, Apr. 2015.

[7]       K. Kiyose, M. Katsuki, Y. Suzaki, and K. Okada, “Competitive males but not attractive males reduce female fitness in Gnatocerus cornutus,” Anim. Behav., vol. 109, pp. 265–272, Nov. 2015.

[8]       U. Candolin, “OPPOSING SELECTION ON A SEXUALLY DIMORPHIC TRAIT THROUGH FEMALE CHOICE AND MALE COMPETITION IN A WATER BOATMAN,” Evolution (N. Y)., vol. 58, no. 8, pp. 1861–1864, Aug. 2004.


 

メスが複数のオスと交尾をすることで集団の絶滅するリスクは抑えられる

2018/11/19 1:06 に Kazuyoshi Minekawa が投稿   [ 2019/05/02 21:51 に更新しました ]

多くの昆虫と同様に、キイロショウジョウバエのメスは複数のオスと交尾をする(polyandry[1]。しかし、必要以上の交尾はメスの寿命を縮めるだけでなく、産卵数の低下も引き起こすなどメスにとって様々なコストを孕んでいることが知られている[2, 3]。そういった多くのコストを伴うpolyandryはなぜ進化してきたのだろうか。この問いに対して、これまでに多くの生態学的研究が行われてきたが、未だにはっきりとした解は導き出されていない。今回のセミナーでは、キイロショウジョウバエの研究を中心に議論の渦中にあるpolyandryの生態学的メカニズムに関して論じていく。ただし、キイロショウジョウバエにおいてオスがメスに交尾を強いるような形質は確認されていないため、本セミナーは強制交尾によるpolyandryという観点が含まれていないことをあらかじめ断っておく。

Polyandryが進化するには、メスが複数のオスと交尾をすることで得られる直接的または間接的な利益が交尾のコストを上回っている必要がある[4]。直接的な利益とは精子の補充や婚姻贈呈などのように交尾をしたメス自身の適応度を上昇させるものである。一方で、間接的な利益とはgood gene仮説(複数回交尾で生じる精子競争によって精子が淘汰される)などのように次世代の適応度を上昇させるものである。Brownらはキイロショウジョウバエにおいて一匹のオスと繰り返し交尾したメスと複数のオスと交尾をしたメスの間で子孫数に差がないことを明らかにし、メスは複数のオスと交尾をすることで直接的な利益を得られていないと主張した[5]。また、メスの精子選択性や質の悪いオスとの遭遇率を加味すると間接的な利益は直接的な利益に比べて重要度が低く、polyandryという交尾システムをドライブする要因には至らないとも考えられている[4, 5]。このように、キイロショウジョウバエにおいて複数のオスとの交尾はコストを上回るほどの利益をメスに齎し得ないと考えられてきたため、生態学者たちはキイロショウジョウバエにおいてpolyandryがなぜ進化してきたのか頭を悩ませていた。

そんな中、2015年にKainらは自然界においてbet-hedgingが間接的な利益として種の存続に寄与していることを明らかにする論文を発表した[6]Bet-hedgingとは複数のオスと交尾をすることで、メスは自らの子孫が適応的でないオス由来の表現型で占められるリスクを最小限に抑えているという考え方である[7]Kainらの研究では実際の天候を反映した実験系を用いることでbet-hedgingの効果を検証し、気温が変動する条件においてbet-hedgingの効果がより発揮されることを明らかにした。つまり、bet-hedgingによって得られる間接的利益はpolyandryの進化を促す要因になりうることが再提唱されたのである。

これまでは研究室内の恒温環境で実験を行っている研究が主であったが、Kainらの研究のように自然界に近い環境で実験を行った結果の方がpolyandryの適応的な意義を正しく考察できているように思われる。キイロショウジョウバエにおいて何がpolyandryを進化させてきたのか未だはっきりとした解は出ていないが、自然界ではどのような環境条件なのだろうかと一歩引いた視点に立ち返ることは生態学的メカニズムを理解する上でより正しい解に近づかせてくれるだろう。

 

References

[1] Gowaty PA (2012) The evolution of multiple mating. Fly 6: 311

[2] Wigby S, Chapman T (2005) Sex peptide causes mating costs in female Drosophila melanogaster. Curr Biol 15: 316321

[3] Priest NK, Galloway LF, Roach DA (2008) Mating frequency and inclusive fitness in Drosophila melanogaster. Am Nat 171: 1021

[4] Arnqvist G, Nilsson T (2000) The evolution of polyandry: multiple mating and female fitness in insects. Anim Behav 60: 145164

[5] Brown WD, Bjork A, Schneider K, Pitnick S (2004) No evidence that polyandry benefits females in Drosophila melanogaster. Evolution 58: 12421250

[6] Kain JS, Zhang S, Akhund-Zade J, Samuel ADT, Klein M, de Bivort BL (2015) Variability in thermal and phototactic preferences in Drosophila may reflect an adaptive bet-hedging strategy. Evolution 69: 31713185

[7] Yasui Y, Garcia-Gonzalez (2016) Bet-hedging as a mechanism for the evolution of polyandry, revisited. Evolution 70: 385397

キイロショウジョウバエの光受容細胞の機能と行動との結びつき 修士2年 吉水敏城

2018/07/17 18:38 に Toshiki Yoshimizu が投稿

 昆虫は他の動物と同様にエサ場や交尾相手などを視覚からの情報をもとに判断している[1]今回のセミナーでは、光の情報を受け取る細胞(光受容細胞)の機能と行動との結びつきをキイロショウジョウバエの研究を例に挙げ紹介する。

 キイロショウジョウバエの複眼は約750個の個眼からなり、各個眼はR1からR8と呼ばれる8つの異なるタイプの光受容細胞 (photoreceptor cell) を持つ。光受容細胞のうちR7R8は各個眼の中央に位置し、R1R6はその外側に位置する[2]R1R6光受容細胞は広範囲の波長の光に応答し、物体の動きの検出にかかわっている。物体の動きの検出のほかに、Zhouらは物体の端を認知しそこに寄って行く行動にはR1R6光受容細胞だけで必要十分であることを、光の強度差のコントラストで疑似的に端を作り出すことにより明らかにした[3]つまり光の強度を区別して行動していると言える。一方、R7R8光受容細胞は異なる波長の光を区別する色覚認識にかかわっている。Yamaguchiらは、R7R8光受容細胞にかかわる多様な変異体を用いたTwo choice testによって、紫外線・青色・緑色それぞれの波長帯がどの光受容細胞によって認識されているのかを明らかにした[4]また、Schnaitmannらは、色識別と学習とを組み合わせることによって、R7R8光受容細胞は光の強度ではなく色をそのものとして認識し、行動していることを明らかにした[5]ここまでの研究例は、R1R6光受容細胞とR7R8光受容細胞が別々に機能しているように述べてきたが、Warrillらの研究によると、R7R8光受容細胞は、物体の動きの検出にかかわるということが、電気生理学的実験と行動実験を組み合わせることで証明された[6]この結果より、動きの検出には色識別以上に光受容細胞間で複雑な制御が行われていることが予想できる。

 ここまで、光受容細胞の機能について述べてきたが、最後に光と行動について考えていきたい。QiuXiaoらは、パルス光をキイロショウジョウバエの白眼変異体であるw1118に照射すると、アッセイプレート中央を横切る行動が光照射なしのときに比べ、少なくなることを見出した[7]白眼変異体は眼の色素に関わる遺伝子に変異が入ったものであり、光受容細胞そのものは変化していないと仮定すると、野生型でも同じ行動が見られるのではないかと考えられ、野生型の実験によってこの行動の変化が生じるのかを確認することが望まれる。変化が生じたのなら、色そのものによってもたらされたものなのか、光の強度によってもたらされたのかを明らかにすることで、光受容細胞の機能と行動の理解がさらに深まり、生じなければ、光受容細胞の白眼変異体と野生型の差を行動から見いだせるといえる。いずれにせよ、光受容細胞の機能と行動との結びつきをより深く理解することにつながると考えられ、さらなる研究が期待される。

Reference

[1]  S. D. Finkbeiner, A. D. Briscoe, and R. D. Reed, “Warning signals are seductive: relative contributions of color and pattern to predator avoidance and mate attraction in Heliconius butterflies.,” Evolution (N. Y)., vol. 68, no. 12, pp. 3410–20, Dec. 2014.

[2]  B.-M. Song and C.-H. Lee, “Toward a Mechanistic Understanding of Color Vision in Insects.,” Front. Neural Circuits, vol. 12, p. 16, Feb. 2018.

[3]  Y. Zhou, X. Ji, H. Gong, Z. Gong, and L. Liu, “Edge detection depends on achromatic channel in Drosophila melanogaster.,” J. Exp. Biol., vol. 215, no. Pt 19, pp. 3478–87, Oct. 2012.

[4]  S. Yamaguchi, C. Desplan, and M. Heisenberg, “Contribution of photoreceptor subtypes to spectral wavelength preference in Drosophila.,” Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., vol. 107, no. 12, pp. 5634–9, Mar. 2010.

[5]  C. Schnaitmann, C. Garbers, T. Wachtler, and H. Tanimoto, “Color Discrimination with Broadband Photoreceptors,” Curr. Biol., vol. 23, no. 23, pp. 2375–2382, Dec. 2013.

[6]  T. J. Wardill, O. List, X. Li, S. Dongre, M. McCulloch, C.-Y. Ting, C. J. O’Kane, S. Tang, C.-H. Lee, R. C. Hardie, and M. Juusola, “Multiple spectral inputs improve motion discrimination in the Drosophila visual system.,” Science, vol. 336, no. 6083, pp. 925–31, May 2012.

[7]  S. Qiu and C. Xiao, “Walking behavior in a circular arena modified by pulsed light stimulation in Drosophila melanogaster w1118 line.,” Physiol. Behav., vol. 188, pp. 227–238, May 2018.

遺伝学的手法によるインスリンシグナリングの制御がキイロショウジョウバエの交尾行動に及ぼす影響 修士課程2年 安藤 優樹

2018/06/22 0:05 に Yuki Ando が投稿   [ 2018/06/25 1:25 に更新しました ]

昆虫の交尾行動は様々な要因によって変動する。これまでのセミナーでは、昆虫の交尾行動と絶食状態の関係について行動生態学的な視点から調査した研究例を紹介した。しかし、それらの研究で用いられた実験材料は鱗翅目、半翅目、双翅目、直翅目、昆虫以外ではクモ綱など多様で、食性や成虫の寿命、生息環境といった条件が統一されておらず、絶食の効果を定量的に比較することができなかった。そこで今回のセミナーでは、キイロショウジョウバエD. melanogasterのみを用いて飢餓状態と交尾行動の関係について調査した研究例を紹介し、絶食が本種の交尾行動に与える影響について考察する。

キイロショウジョウバエにおける研究では、空腹時の生理状態を再現するため、インスリン受容体(InR)やインスリン様ペプチド(dilp)をノックアウトし、インスリンシグナリングやそれに続く神経回路の解発を抑制する方法がよく用いられる。Kuoらは、インスリンシグナリングの有無によってメスの体表炭化水素(CHC)の組成が変化し、シグナリングが陽性の場合にはオスから求愛されやすく(メスの魅力が高く)なることを発見した[1]。またSchultzhausらは、メスのCHCは食事の質によって変化し、高脂肪食を食べたメスでは魅力が低下することと、インスリンシグナリングによってこれが回復することを見出した[2][3]これに対しLebreton, Watanabe, Sakaiらの研究では、InRdilpをノックアウトし、インスリンシグナリングによって活性化する神経と交尾行動の関係に注目した実験を行った。その結果、Watanabe, Sakaiらは特定のdilpの発現[4][5]を、Libretonらは特定の嗅覚神経[6][7]でのインスリンシグナリングを抑制した場合に交尾率が上昇することを見出し、これらのペプチドや神経がメスの交尾行動を制御していると主張した。

これらの研究例を見ると、キイロショウジョウバエの交尾行動の活性がインスリンシグナリングによって制御されており、したがってその個体が飢餓状態かどうかで交尾率に変化が生じていることは間違いないようである。しかし、行動生態学的な視点に立つと、これらの研究例にはいくつか疑問が残る。特に、ノックアウトによってインスリンシグナリングを人為的に抑制したときと、単純に餌を与えずに飼育して飢餓状態に置いたときでは交尾率が全く逆に変化している[6][7]点は注目すべきだろう。つまり、遺伝学的手法による操作では、本種の自然界における飢餓状態を再現できていない、あるいは「できない」可能性が高いということである。

モデル生物であるキイロショウジョウバエを用いた研究においても、技術的な進歩が著しい遺伝学的手法に傾倒せず、古典的ともいえる生態学的な実験を同様に実施していくことは、本種についての理解を深める上で重要といえるのではないだろうか。

 

References

[1]       T. H. Kuo et al., “Insulin signaling mediates sexual attractiveness in Drosophila,” PLoS Genet., vol. 8, no. 4, 2012.

[2]       J. N. Schultzhaus, J. J. Nixon, J. A. Duran, and G. E. Carney, “Diet alters Drosophila melanogaster mate preference and attractiveness,” Anim. Behav., vol. 123, pp. 317–327, 2017.

[3]       J. N. Schultzhaus, C. J. Bennett, H. Iftikhar, J. Y. Yew, J. Mallett, and G. E. Carney, “High fat diet alters Drosophila melanogaster sexual behavior and traits: Decreased attractiveness and changes in pheromone profiles,” Sci. Rep., vol. 8, no. 1, 2018.

[4]       T. Sakai et al., “Insulin-producing cells regulate the sexual receptivity through the painless TRP channel in Drosophila virgin females,” PLoS One, vol. 9, no. 2, pp. 1–13, 2014.

[5]       K. Watanabe and T. Sakai, “Knockout mutations of insulin-like peptide genes enhance sexual receptivity in Drosophila virgin females.,” Genes Genet. Syst., vol. 1, pp. 237–241, 2015.

[6]       S. Lebreton et al., “Feeding regulates sex pheromone attraction and courtship in Drosophila females,” Sci. Rep., vol. 5, p. 13132, 2015.

[7]       S. Lebreton, M. A. Carlsson, and P. Witzgall, “Insulin signaling in the peripheral and central nervous system regulates female sexual receptivity during starvation in Drosophila,” Front. Physiol., vol. 8, no. SEP, 2017.

なぜメスは生涯に一度しか交尾をしないのか?

2018/06/05 22:09 に Kazuyoshi Minekawa が投稿   [ 2019/05/02 21:52 に更新しました ]

1948年にBatemanはメスが1回の交尾で生涯産卵するために必要な精子を得ることができ、2回目以降の交尾はメスの適応度の低下をもたらすことを発見した。しかし、Batemanの理論上ではメスにとって生涯に一度しか交尾を行わない(monandry)方が適応的であるにもかかわらず、多くの動物においてメスは複数のオスと交尾を行う(polyandry)。Polyandryのメカニズムを解明するために多くの研究が行われ、メスにとって複数のオスと交尾を行うことの適応度上におけるメリットがいくつか明らかになっている。また、Worthingtonらによってメスの複数回交尾は生涯産卵数の増加をもたらすことが明らかにされた[]。つまり、Batemanの理論ではmonandryが生態学的観点から適応的であると考えられてきたが、それに矛盾する理論やそれを覆す事実が報告されつつあるのだ。それでは、なぜmonandryというメスの交尾システムが進化してきたのだろうか。今回のセミナーではmonandryのメカニズムを理解するためにこれからどのような研究が求められるのかについて論じていきたい。

Monandryを引き起こすメカニズムの多くは交尾をしたオスが精子競争によって自らの父性が減少することを防ぐためにメスの再交尾を抑制した結果であると考えられている。オスは精漿に含まれる精巣由来物質Sex peptideSP[]、交尾栓[]、無核精子の放出[]などによってメスの交尾受容性を低下させ、再交尾を抑制していることが知られている。これらのメカニズムはオスの操作によって半強制的にもたらされるため、monandryがメスにとって適応的でなくても進化してきたことは理解できる。

一方で、メスがこれらのオスによる操作を利用して、自らの適応度の低下を防ぐために再交尾を拒否しているという考えもある。キイロショウジョウバエにおいてSPを受容するSex peptide receptorSPR)がメスの生殖巣内に存在するのだが、SPRSPに特化して反応することが発見された[, ]。つまり、メスは交尾受容性を低下させるSPの受容体を進化、維持しており、それは不必要な交尾を避けるためにSPを利用しているのではないかと考えられているのである。ただ、polyandryにもいくつかの利益がある中で、強制的ではないオスの操作を用いてメスが自ら再交尾を拒否することに疑念は残るだろう。

 これまでの研究はmonandrypolyandryのメカニズムについて適応度上の損得から説明しようする研究が主であった。しかし、2つの交尾システムはそれぞれが利益と不利益を持ち合わせているため、一概に適応度の観点から片方の交尾システムが進化してきたと説明するのは難しい。つまり、適応度以外の観点から交尾システムのメカニズムについて考察する必要がある。そういった背景の中で、神経生理学的観点からメスの体内で交尾受容性を制御しているメカニズムを明らかにしようとしている研究がいくつかある。未交尾メスにおいてオスからの求愛や性フェロモンの情報が脳に存在するpC1神経に伝達され、pC1神経から動きの鈍化や静止などのメスの交尾受容行動が引き起こされていることが明らかになった[]。また、SPの情報がSP受容神経、SAG神経を通じて脳に伝達される神経メカニズムも明らかにされた[]。これらの神経は中枢神経系に通じていることは明らかにされているが、それぞれの神経がどこで合流しているのかまでは未知のままである。これからの研究でメスの交尾受容性を制御する神経と再交尾を抑制する刺激の関係性が明らかになれば、既交尾メスの交尾システムがmonandryとなるメカニズムをより明瞭にするだろう。

 

References

[1] Worthington AM, Kelly CD (2016) Direct costs and benefits of multiple mating: Are high female mating rates due to ejaculate replenishment? Bahav Proc 124: 115122

[2] Denis B et al. (2017) Male accessory gland proteins affect differentially female sexual receptivity and remating in closely related Drosophila species. J Insect Physiol 99: 6777

[3] Baer B et al. (2001) A nonspecific fatty acid within the bumblebee mating plug prevents females from remating. Proc Natl Acad Sci USA 98: 39263928

[4] Cook PA, Wedell N (1999) Non-fertile sperm delay female remating. Nature 397: 486

[5] Yapici N et al. (2008) A receptor that mediates the post-mating switch in Drosophila reproductive behaviour. Nature 451: 3337

[6] Tsuda M et al. (2015) Visualizing molecular functions and cross-species activity of sex-peptide in Drosophila. Genetics 200: 11611169

[7] Ellendersen BE, von Philipsborn AC (2017) Neuronal modulation of D. melanogaster sexual behavior. Curr Opin Insect Sci 24: 2128

[8] Feng K et al. (2014) Ascending SAG neurons control sexual receptivity of Drosophila females. Neuron 83: 135148

何がなわばりを形成する要因になるのか~トンボを例に~ 修士2年 吉水敏城

2018/06/05 22:04 に Toshiki Yoshimizu が投稿

“なわばり”( テリトリー、territory ) とは、「個体あるいは個体のグループが、明らかな防衛行為や誇示によって、多少とも排他的に占有する地域( Wilson, 1975 ; Davies, 1978a )」 と定義される。なわばりを保持すると、その中の資源を独占的に利用できることや、オスがメスと遭遇しやすくなるなどの利益 (benefit) がある一方、他個体の侵入の頻度が増して、なわばりを防衛するためにエネルギーを消費してしまうという不利益 (cost) もある。利益と不利益の双方で決まるなわばり行動は、動物の生存戦略を考えるうえで非常に重要である[1]今回は、昆虫の中でもなわばり制を最も発展させたグループであるトンボ類を例にとり、何がなわばりを形成する要因になるのかを見ていく。

 なわばりが作られる場所の“質”[2]と“ランドマーク”(landmark目印)[3]に着目した研究がある。場所の質を人為的操作することによって、なわばりを持たない個体は、常に質の高い場所付近を飛び回り、その場所をなわばりに持つ個体からなわばりを常に奪おうとしていることが明らかになった。別の種ではランドマークをうまく利用することによりなわばりをより強固なものにしていることも分かった。以上からなわばり形成には場所の質やランドマークなどの環境要因がかかわっているといえる。また、体長と脂肪量、飛翔筋量が多い個体がなわばりを持つ傾向にあり[4][5]個体要因もなわばり形成にかかわっているといえる。さらに、人為的に昆虫幼若ホルモン類似薬であるメトプレン処理を施した研究[6]と疑似的にウイルス感染をさせた研究[7]がある。なわばりを持たない個体にメトプレン処理を施すと闘争行動をして強くなわばり行動をするようになったが、なわばりを持つ個体にメトプレン処理を施してもなわばり行動に変化はなかった。このことにより、なわばりを持つ個体は高いホルモンレベルを持つことが明らかになった。また、疑似的ウイルス感染させた個体では、なわばりを持っている個体の年齢にかかわらず、なわばりを守るようになった。これは、生理的条件が悪化するに伴い、なわばり持つことによって得られる利益を守ろうとすることが働いたからだと考えられる。これらの結果は、生理的要因もなわばりの形成にかかわっていることを示している。

 以上の研究から環境要因、個体要因、生理的要因の3つがなわばりの形成にかかわっていることがわかった。これらに加えて、「他個体との相互作用」も要因になるのではと考える。なわばりは、同種他個体に対して防衛されるものであり、過去に他個体と闘争行動を行い、勝敗が決まったという経験は、なわばり形成に大きく影響を与えるからだ。また、メスとの交尾行動後どうなるのか、なわばりにオスとメスが同時になわばりに入ったときにはなわばり形成にはどのような影響があるかは不明である。「他個体との相互作用」を考慮することは、3つの要因と複雑に絡み合う非常に難しいことだが、なわばり形成の更なる理解につながると期待できる。

Reference

[1]  J. R. Potts and M. A. Lewis, “How do animal territories form and change? Lessons from 20 years of mechanistic modelling.,” Proceedings. Biol. Sci., vol. 281, no. 1784, p. 20140231, Jun. 2014.

[2]  M. J. Gołąb, S. Śniegula, S. M. Drobniak, T. Zając, and M. A. Serrano-Meneses, “Where do floaters settle? An experimental approach in odonates,” Anim. Behav., vol. 86, no. 5, pp. 1069–1075, Nov. 2013.

[3]  J. A. Lojewski and P. V. Switzer, “The role of landmarks in territory maintenance     by the black saddlebags dragonfly, Tramea lacerata,” Behav. Ecol. Sociobiol.,     vol. 69, no. 3, pp. 347–355, Mar. 2015.

[4]  M. A. Serrano-Meneses, A. Córdoba-Aguilar, V. Méndez, S. J. Layen, and T. Székely, “Sexual size dimorphism in the American rubyspot: male body size predicts male competition and mating success,” Anim. Behav., vol. 73, no. 6, pp. 987–997, Jun. 2007.

[5]  G. Raihani, M. A. Serrano-Meneses, and A. Córdoba-Aguilar, “Male mating tactics in the American rubyspot damselfly: territoriality, nonterritoriality and switching behaviour,” Anim. Behav., vol. 75, no. 6, pp. 1851–1860, Jun. 2008.

[6]  A. Córdoba-Aguilar and R. Munguía-Steyer, “To be or not to be? Mating success and survival trade-offs when switching between alternative reproductive tactics,” J. Evol. Biol., vol. 28, no. 11, pp. 2119–2124, Nov. 2015.

[7]  D. M. González-Tokman, I. González-Santoyo, and A. Córdoba-Aguilar, “Mating success and energetic condition effects driven by terminal investment in territorial males of a short-lived invertebrate,” Funct. Ecol., vol. 27, no. 3, pp. 739–747, Jun. 2013.

精子の放出タイミングをコントロールしているのは誰なのか?

2017/12/13 21:55 に Kazuyoshi Minekawa が投稿   [ 2019/05/02 21:53 に更新しました ]

 多くの昆虫においてメスは複数のオスと交尾をし、オス同士は受精を巡ってメスの生殖巣内で争いを繰り広げる。また、いくつかの種ではその競争において後に交尾をしたオス(2nd male)が先に交尾をしたオス(1st male)に比べて有利であることが知られており、この現象はsperm precedenceと呼ばれている。1990年代後半、キイロショウジョウバエにおいてもsperm precedenceに関する研究が盛んに行われた。キイロショウジョウバエのsperm precedenceを引き起こすメカニズムとして、2nd maleの射精によってメスの貯精器官に残っていた1st maleの精子が押しのけられるdisplacement[1]2nd maleの精液に含まれる精漿によって1st maleの精子が機能を失うincapacitation[24]2つの仮説が提唱された。しかし、当時の技術ではsperm precedenceの詳しいメカニズムを明らかにすることができず、それらの仮説が正しいのかどうかは曖昧なままであった。

2000年に入り、分子生物学の進歩によってsperm precedenceに関する研究は加速する。2004年、SnookHoskenは貯精器官内における精子の状態を観察することで、今まで考えられてきたsperm precedenceの仮説を大きく覆した[5]。彼らの発見はincapacitationの存在を否定し、またメスの貯精器官から1st maleの精子が放出されるdumpingというsperm precedenceに影響を与える新たなメカニズムを提示することとなった。続いて2010年、Manierらはdumpingのメカニズムが貯精器官から子宮に放出するreleaseと子宮から体外に放出するejection2段階で行われていることを明らかにした[6]。さらにejectionにフォーカスして研究は掘り下げられていく。2013年、Lüpoldらはejectionが行われるタイミングが遅くなればなるほど2nd malesperm precedenceは強くなるといった相関関係にあることを示した[7]2015年にはejectionが正常に作用するためにメスの神経回路が関与していることや[8]、オスの精漿が子宮の出入り口で凝固し蓋をする交尾栓の存在が重要であることも明らかになった[9,10]

これまでの研究によってejectionsperm precedenceに影響を与える重要なメカニズムであり、またメスとオスは両者ともejectionの作用に関与していることが分かってきた。しかし重要なのはejectionという行動が誰にとって適応的なのかであり、プレイヤーの適応度に影響を与えるejectionのタイミングが何によって制御されているのか未だ明らかになっていない。これからの研究でejectionのタイミングをコントロールしているのはオスなのかメスなのか、はたまた誰もコントロールすることはできないのか、それらを明らかにすることができればejectionの進化してきた背景も明瞭になってくるだろう。


References

[1] Lefevre G, Jonsson UB (1962) Sperm transfer, storage, displacement, and utilization in Drosophila melanogaster. Genetics 47: 17191736

[2] Scott D, Richmond RC (1990) Sperm loss by remating Drosophila melanogaster females. J Insect Physiol 36: 451456

[3] Harshman LG, Prout T (1994) Sperm displacement without sperm transfer in Drosophila melanogaster. Evolution 48: 758766

[4] Price CSC, Dyer KA, Coyne JA (1999) Sperm competition between Drosophila males involves both displacement and incapacitation. Nature 400: 449452

[5] Snook RR, Hosken DJ (2004) Sperm death and dumping in Drosophila. Nature 428: 939941

[6]* Manier MK et al. (2010) Resolving mechanisms of competitive fertilization success in Drosophila melanogaster. Science 328: 354357

[7]* Lüpold S et al. (2013) Female mediation of competitive fertilization success in Drosophila melanogaster. Proc Natl Acad Sci USA 110: 1069310698

[8] Lee KM et al. (2015) A neuronal pathway that controls sperm ejection and storage in female Drosophila. Curr Biol 25: 790797

[9] Avila FW et al. (2015) Retention of ejaculate by Drosophila melanogaster females requires the male-derived mating plug protein PEBme. Genetics 200: 11711179

[10] Avila FW et al. (2015) Don’t pull the plug! The Drosophila mating plug preserves fertility. Fly 9: 6267 

*過去に紹介済みの論文。

キイロショウジョウバエによる嗅覚信号を用いた柔軟な情報伝達の可能性 修士課程1年 安藤 優樹

2017/11/27 23:28 に Yuki Ando が投稿   [ 2017/12/04 20:53 に更新しました ]

 昆虫において、嗅覚刺激を伴う化学的なコミュニケーションは様々な行動の制御要因となる。前回のセミナーでは、昆虫の精子・精漿をめぐるオスとメスの交尾戦略について紹介したが、その中でメスが自身の空腹状態によってクチクラ炭化水素の組成を変化させること、オスがメスの状態を吟味して精液の組成を変化させることを説明し、昆虫の雌雄間で行われる化学的なコミュニケーションは、オスからのメスに対する性選択の原因となっている可能性について言及した。そこで今回のセミナーでは、昆虫、特にキイロショウジョウバエDrosophila melanogasterにおいて、嗅覚信号は単に交尾行動を促進するだけではなく、多様な行動を解発することを実証した研究例を紹介する。

 昆虫の嗅覚神経は、記憶を司るキノコ体に投射していることが明らかになっている[1]。ゆえに、嗅覚刺激と行動の関係については、ある経験を嗅覚刺激と結び付けて短期的に学習し、それ以後の行動を変化させる「連合学習」がよく知られている。例えば江島らは、キイロショウジョウバエのオスにメスの匂いと交尾が失敗した経験を連合学習させた。その結果、学習したオスは、それ以後同じ匂いを受容した際に求愛活性を低下させ、さらにその記憶が短時間維持されることを見出した[2]。

 これに対して、キイロショウジョウバエの交尾に関連した行動が嗅覚刺激そのものによって惹起される例も知られている。最も一般的なのは性フェロモンによる特定の行動の惹起であるが、近年では嗅覚信号が経験・記憶とは無関係に交尾行動を制御する例や、求愛行動そのものではなくそれに関連した別の行動をとらせる例も確認されている。例えば江島らは、キイロショウジョウバエのオスの求愛活性の低下が、他のオス個体の性フェロモンによって学習とは関係なく引き起こされることを明らかにした[3]。また、山元らは、キイロショウジョウバエのオスは嗅覚の情報を利用して求愛行動中は常にメスの後方にポジショニングし、自身の運動量を変化させていることを明らかにした[4]。さらにThomasらは、キイロショウジョウバエのドーパミン生合成経路を阻害することでメスの性フェロモンの量や組成が変化し、それがオスの求愛行動に影響を与えることを確認した[5]。

 しかしながら、これらの例ではオスの性フェロモンとしてcVA (cis-vaccenyl acetate) [3]、メスの性フェロモンとして7, 11-ジエン化合物[5]に注目しているのみで、これらが含まれている体表ワックスの他の成分については言及されていない。そこでYewら、Everaertsらは、体表ワックスに含まれる成分を詳細に分析した。その結果、体表ワックスには新たに17の炭化水素を含む数十種類の成分が含まれること、またそれらの組成が日齢や交尾経験によって経時的に変化することが明らかとなった[6][7]。

 これらの結果は、キイロショウジョウバエがクチクラ炭化水素に含まれる揮発性化合物の組成を変化させることで、複雑かつ多様な情報のやり取りを行っている可能性を示唆している。先に述べたように嗅覚受容と行動の惹起がほぼ同時に起こることも併せて考えると、キイロショウジョウバエは匂い物質とそれに惹起される行動によって、状況に応じて相手に伝達する情報を柔軟に変化させながら行う会話にも似たコミュニケーションの方法を体得しているのかもしれない。今後、そのような嗅覚的コミュニケーションを視野に入れることが、昆虫の交尾行動を考える上での重要な鍵となるだろう。

[1] T. Zars, “Behavioral functions of the insect mushroom bodies,” Curr. Opin. Neurobiol., vol. 10, no. 6, pp. 790–795, 2000.
[2] A. Ejima, “Sequential Learning of Pheromonal Cues Modulates Memory Consolidation in Trainer-Specific Associative Courtship Conditioning,” Curr. Biol., vol. 15, no. 1, pp. 194–206, 2005.
[3] A. Ejima et al., “Generalization of Courtship Learning in Drosophila Is Mediated by cis-Vaccenyl Acetate,” Curr. Biol., vol. 17, no. 7, pp. 599–605, 2007.
[4] K. Kimura, C. Sato, K. Yamamoto, and D. Yamamoto, “From the back or front: The courtship position is a matter of smell and sight in Drosophila melanogaster males,” J. Neurogenet., vol. 29, no. 1, pp. 18–22, 2015.
[5] C. Wicker-Thomas and M. Hamann, “Interaction of dopamine, female pheromones, locomotion and sex behavior in Drosophila melanogaster,” J. Insect Physiol., vol. 54, no. 10–11, pp. 1423–1431, 2008.
[6] J. Y. Yew, K. Dreisewerd, H. Luftmann, J. Müthing, G. Pohlentz, and E. A. Kravitz, “A New Male Sex Pheromone and Novel Cuticular Cues for Chemical Communication in Drosophila,” Curr. Biol., vol. 19, no. 15, pp. 1245–1254, 2009.
[7] C. Everaerts, J. P. Farine, M. Cobb, and J. F. Ferveur, “Drosophila cuticular hydrocarbons revisited: Mating status alters cuticular profiles,” PLoS One, vol. 5, no. 3, pp. 1–12, 2010.

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