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Delia属昆虫の産卵行動に同種他個体の存在が与える影響 越川智瑛

2011/06/27 1:22 に Takashi Matsuo が投稿   [ 2011/07/04 1:37 に ユーザー不明 さんが更新しました ]
2011年7月1日(金)10:00-

 昆虫のメスが産卵しようとするとき、寄主植物に他のメスが既に産卵し、幼虫や卵という先客が存在する場合がありうる。同種の幼虫や卵が存在する場所を好んで産卵するならば、幼虫はより高密度で生育することになる。今回のゼミでは、双翅目の2種のDelia属昆虫について、同種他個体の存在がメスの産卵行動に与える影響について紹介する。

 ダイコンバエDelia floralisの近縁種であるD. radicumのメスは、カリフラワーやケールなどのアブラナ科植物の地際に産卵する。
 メスは、同種の幼虫による食害を受けた植物を好んで産卵し、根が食害されて4日後のカリフラワーおよび5日後のケールが最も好まれた(1)。また、植物体の地上部を取り除き、根と土壌だけを用いても同様の選好性が確認された(2)。
 幼虫が孵化する前の段階ではどうだろうか。産卵の際、メスは他のメスが先に利用した植物を避ける(3)。他方で、他のメスが既に卵を産んだ場所の近傍にあった砂粒は好まれる(3)。メスが植物および砂粒に対して複雑なマーキングを行っている可能性が示された。また、卵の存在はメスの産卵を刺激し、卵表面からD. radicumの産卵刺激物質であるCIF-1が検出された(4)。ただし、卵表面の洗浄液については、忌避(3)と誘引(4)という相反する結果が得られており、研究がやや混乱しているような印象も受ける。
 野外でのD. radicumの分布パターンはランダムではなく、集中している傾向にあると知られている(5)。しかし、先に挙げた(1)~(4)の研究は実験室内で行われたものであり、野外での産卵集中化を説明するためには不十分な点もあると考えられる。

 一方、タマネギバエD. antiquaはタマネギを主たる寄主とし、ネギ、ニラ、ニンニクなどユリ科ネギ属植物を加害する。卵はタマネギ幼苗の根際に産まれることが多いが、葉鞘に産まれることもある。
 タマネギバエを大量飼育すると産卵の開始が早くなり、他個体の存在によって産卵が促進されていると考えられている(6)。また、メスは他のメスが産卵中である場所に好んで産卵する傾向にあることが知られている(7)。
 タマネギバエの産卵集中化では、卵と他のメスの両方が刺激要因となっているという報告がある(8)。新鮮な卵をタマネギ鱗茎切片に接種し、24時間および48時間放置すると、それらの匂いは産卵を誘引する。さらに、新鮮な卵の洗浄水をタマネギ鱗茎切片に供すると、その匂いは産卵を誘引するが、洗浄水をフィルター濾過すると誘引効果は失われる。これらの結果は、産卵集中への微生物の関与を示唆するものだ。また、メスから切除した産卵管のヘプタン抽出液は短時間で産卵を誘引し、集合的な産卵行動を説明する仮説になりえる。
 タマネギバエの産卵集中に関する研究は限られている。今後は誘引物質の特定だけでなく、誘引効果の経時的変化やメス個体ごとの産卵行動に注目することが必要となるだろう。


引用文献

1.      Baur, R., Kostal, V., and Stadler, E. (1996). Root damage by conspecific larvae induces preference for oviposition in cabbage root flies. Entomologia Experimentalis Et Applicata 80, 224-227.
2.      Baur, R., Kostal, V., Patrian, B., and Stadler, E. (1996). Preference for plants damaged by conspecific larvae in ovipositing cabbage root flies: Influence of stimuli from leaf surface and roots. Entomologia Experimentalis Et Applicata 81, 353-364.
3.      de Jong, R., and Stadler, E. (2001). Complex host marking in the cabbage root fly. Chemoecology 11, 85-88.
4.      Gouinguene, S.P.D., Poiger, T., and Stadler, E. (2006). Eggs of cabbage root fly stimulate conspecific oviposition: Evaluation of the activity and determination of an egg-associated compound. Chemoecology 16, 107-113.
5.      Mukerji, M.K., and Harcourt, D.G. (1970). Spatial pattern of immature stages of Hylemya brassicae on cabbage. Canadian Entomologist 102, 1216-1222.
6.      Robinson, A.S., and Zurlini, G. (1979).The response of two strains of Hyelemya antiqua (Diptera: Anthomyiidae) to a constant and an alternating temperature regime. Canadian Entomologist 111, 1207-1217.
7.      Harris, M.O., and Miller, J.R. (1983). Color stimuli and oviposition behavior of the onion fly, Delia antiqua (Meigen). (Diptera: Anthomyiidae). Annals of the Entomological Society of America 76, 766-771.
8.      Judd, G.J.R., and Borden, J.H. (1992). Aggregated oviposition in Delia antiqua (Meigen): a case for mediation by semiochemicals. Journal of Chemical Ecology 18, 621-635.
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