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DrosophilaにおけるSpiroplasma感染が宿主の免疫に与える影響 服部祐輝

2011/10/21 2:42 に Takashi Matsuo が投稿   [ 2011/10/21 2:49 に更新しました ]
2011.10.28 10:00-

 昆虫に広く存在する共生細菌は、宿主昆虫の免疫機構の影響を受けることなく増殖し、宿主昆虫と安定した共生関係を築いていると考えられているが、これらの細菌がどのように宿主の免疫機構に対応しているかはよく分かっていない[1]。代表的な昆虫共生細菌Wolbachiaに関する研究としては、オナジショウジョウバエDrosophila simulansとこれを宿主とするWolbachiaを用いた研究がなされており、この中では、Wolbachia感染によっては、宿主の抗菌ペプチド遺伝子の発現は誘導も抑制もされないということが観察された[2]。
 Drosophila属では複数の種でSpiroplasma感染系統が発見されている。Drosophila属では体液性免疫機構の研究が進んでいること、Drosophila属におけるSpiroplasma感染系統ではSpiroplasmaは主として宿主の体液中に存在していること[4]から、Drosophila-Spiroplasmaの共生関係は、共生細菌と宿主の免疫機構の関係を理解する材料として適しており[5]、これらを用いた幾つかの研究例が報告されている。
 キイロショウジョウバエD.melanogasterのSpiroplasma(NSRO)系統を用いた研究では、Wolbachiaと同様にSpiroplasma感染は抗菌ペプチドの発現を誘導も抑制もしないことが観察された。一方で、Spiroplasma感染個体で抗菌ペプチドを発現させると、菌密度が有意に低下することが観察された。このことから、同系統ではSpiroplasmaが宿主の免疫機構から隠れることで共生関係を維持しているものと考えられた[3]。
 NSRO系統(male-killing)に加えてNSRO-A系統(Non male-killing)を用いたさらに詳細な同様の研究では、両系統ともに通常の病原微生物に対するレベルの抗菌ペプチドの発現を誘導しない点では共通しているが、NSRO系統ではSpiroplasma非感染系統に比べ、病原菌が存在しない条件下で抗菌ペプチド発現が抑制される傾向がみられたのに対し、NSRO-A系統ではこの傾向がみられないことが観察された[5]。
 他のDrosophila属由来のSpiroplasmaをトランスフェクションして樹立した複数のD.melanogasterのSpiroplasma系統について、DNAマイクロアレイの手法を用いてSpiroplasmaの種類に依存して宿主の遺伝子発現パターンが変化するかどうかを調べた研究では、どのSpiroplasma系統でも通常の病原菌が誘導するレベルの免疫関連遺伝子の発現増加はみられず、このことから宿主の免疫機構を活性化しないのはSpiroplasmaの一般的な特性であると考えられた。一方、本来と異なる宿主へのトランスフェクションが原因とみられる様々な異常(Spiroplasmaの垂直感染率の低下、宿主の寿命や繁殖に対する悪影響[7])について、関連すると思われる遺伝子群での発現パターンの変化が観察された。このことから、水平伝播によるSpiroplasmaの感染拡大においては、新宿主の免疫機構への適応はあまり障壁とはならず、別の要素(新宿主に対し病原性を示さないこと等)がより重要であると考えられた[6]。


References

[1]Siozios S, Sapountzis P, Ioannidis P, Bourtzis K. (2008) Wolbachia symbiosis and insect immune response. Insect Science 15,89-100
[2]Bourtzis K, Pettigrew MM, O'Neill SL. (2000) Wolbachia neither induces nor suppresses transcripts encoding antimicrobial peptides. Insect Mol Biol. Dec;9(6):635-9.
[3]Hurst GD, Anbutsu H, Kutsukake M, Fukatsu T. (2003) Hidden from the host: Spiroplasma bacteria infecting Drosophila do not cause an immune response, but are suppressed by ectopic immune activation. Insect Mol Biol. Feb;12(1):93-7.
[4]Anbutsu H, Fukatsu T. (2006) Tissue-specific infection dynamics of male-killing and nonmale-killing spiroplasmas in Drosophila melanogaster. FEMS Microbiol Ecol. Jul;57(1):40-6.
[5]Anbutsu H, Fukatsu T. (2010) Evasion, suppression and tolerance of Drosophila innate immunity by a male-killing Spiroplasma endosymbiont. Insect Mol Biol. Aug;19(4):481-8.
[6]Hutchence KJ, Fischer B, Paterson S, Hurst GD. (2011) How do insects react to novel inherited symbionts? A microarray analysis of Drosophila melanogaster response to the presence of natural and introduced Spiroplasma. Mol Ecol. Mar;20(5):950-8.
[7]Kageyama D, Anbutsu H, Watada M, Hosokawa T, Shimada M, Fukatsu T. (2006) Prevalence of a non-male-killing spiroplasma in natural populations of Drosophila hydei. Appl Environ Microbiol. Oct;72(10):6667-73.
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