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エクダイソン誘導性転写因子Broad-Complexから見る完全変態と不完全変態 D3 長峯啓佑

2012/05/25 22:33 に Takashi Matsuo が投稿   [ 2012/05/25 22:35 に更新しました ]
2012年5月25日(金) 

 不完全変態昆虫は若虫(nymph)、成虫の2つのライフステージを持ち、生殖器と翅を除いてnymphは成虫の形態に類似している。完全変態昆虫は不完全変態から進化したと考えられており、幼虫(larva)、蛹、成虫の3つのライフステージを持ち、それらは互いに類似しない形態を有している。このセミナーでは、完全変態の進化的起源に関してTrumanとRiddifordが1999年に提唱した仮説が、エクダイソン(20HE)誘導性転写因子のひとつであるBroad-Complex(BR-C)の発現および機能から見ても支持される。
 Trumanらの仮説によると、完全変態昆虫のlarvaは不完全変態昆虫のembryonic stageに、完全変態昆虫の蛹は不完全変態昆虫のnymphに、それぞれ相同だという。完全変態昆虫ではlarvaの終齢後期に体液中の幼若ホルモン(JH)濃度が減少し、20HEが上昇する。一方、不完全変態ではembryonic stage後期に同様の内分泌制御が観察されている。また翅の形態形成は、完全変態昆虫では蛹で生じるのに対し、不完全変態ではnymphにおいて生じる(1)。
 BR-CはキイロショウジョウバエDrosophila melanogasterの20HE早期応答性因子として単離された遺伝子である。完全変態昆虫では、larvaの終齢後期にBR-Cが特異的に発現し、蛹になると発現量が減少する。さらに終齢幼虫にJHアナログを投与すると終齢後期のBR-C発現が抑制され過剰脱皮が生じ、蛹にJHアナログを投与するとBR-C発現が誘導されて第2 蛹が形成された。これらのことからJHは“status quo”(現状維持能)を持ち、BR-Cは蛹の形成に重要な役割を担っていることが示唆された(2)(3)。
 不完全変態昆虫については、チャバネゴキブリBlattella germanicaを用いてembryonic stageにおけるBR-Cの発現と機能が解析され、またナガカメムシOncopeltus fasciatusを用いてnymphおよび成虫のBR-Cの発現と機能が解析された。チャバネゴキブリのembryonic stageでは3つの20HEピークとそれに続く胚クチクラの剥離が見られ、その後に孵化が起こる。BR-Cの発現量は1つ目と2つ目の20HEピーク後に上昇しembryonic stage終盤まで高発現が続く。JHはembryonic stage後期に検出された。これらのことから、1つ目の20HEピークにBR-Cの発現が誘導され、その発現がJH存在下で維持されたと考えられる。RNAi法によりBR-Cをノックダウンした胚では、胚条の発達や孵化の成功に異常が見られた(4)。完全変態昆虫であるキイロショウジョウバエのBR-C null変異体では胚発生の異常は起こらないので(5)(6)、BR-Cのembryonic stageにおける機能は不完全変態昆虫に特異的であると考えられる。
不完全変態昆虫であるナガカメムシでは、終齢後期を除いてnymph期には恒常的に、JHが存在し、BR-Cも発現していた。BR-Cは特に、次齢nymphのクチクラが作られる幼虫-幼虫脱皮の前に強く発現していた。一方、成虫クチクラが形成される終齢後期にはBR-Cは発現していないが、JHを投与すると終齢後期にもBR-Cは発現し、その場合nymphは蛹化せず過剰な幼虫-幼虫脱皮に至った。また、JH阻害剤であるprecoceneを投与した3 齢nymphではBR-Cの発現量が低下し、その個体は早熟変態に至った。これらの結果からnymphではBR-Cの発現にはJHが必要であることが示唆された(7)。
 以上をまとめると、完全変態昆虫のlarvaと不完全変態昆虫のembryonic stageでは、それぞれ、BR-Cの発現が抑制されている。このBR-Cの発現抑制はどちらの昆虫グループにおいてもJHの存在によるものだと考えられている。また、完全変態昆虫の蛹と不完全変態昆虫のnymphでは、それぞれBR-CがJHにより誘導されている。これらのことから、完全変態昆虫のlarvaと不完全変態昆虫のembryonic stageが、そして完全変態昆虫の蛹と不完全変態昆虫のnymphが、それぞれ個体発生からみて相同なライフステージだというTrumanらの仮説は、内分泌制御だけでなく分子生物学の観点からも支持されたといえる(7)。


引用文献

(1). Truman JW, Riddiford LM. The origins of insect metamorphosis. Nature. 1999 Sep 30;401(6752):447-52.

(2). Suzuki Y, Truman JW, Riddiford LM. The role of Broad in the development of Tribolium castaneum: implications for the evolution of the holometabolous insect pupa. Development. 2008 Feb;135(3):569-77. Epub 2008 Jan 2.

(3). Zhou X, Riddiford LM. Broad specifies pupal development and mediates the 'status quo' action of juvenile hormone on the pupal-adult transformation in Drosophila and Manduca. Development. 2002 May;129(9):2259-69.

(4). Piulachs MD, Pagone V, Bells X. Key roles of the Broad-Complex gene in insect embryogenesis. Insect Biochem Mol Biol. 2010 Jun;40(6):468-75. Epub 2010 Apr 18.

(5). Kiss I, Beaton AH, Tardiff J, Fristrom D, Fristrom JW. Interactions and developmental effects of mutations in the Broad-Complex of Drosophila melanogaster. Genetics. 1988 Feb;118(2):247-59.

(6). Sullivan AA, Thummel CS. Temporal profiles of nuclear receptor gene expression reveal coordinate transcriptional responses during Drosophila development. Mol Endocrinol. 2003 Nov;17(11):2125-37. Epub 2003 Jul 24.

(7). Erezyilmaz DF, Riddiford LM, Truman JW. The pupal specifier broad directs progressive morphogenesis in a direct-developing insect. Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 May 2;103(18):6925-30. Epub 2006 Apr 25.

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