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分解と生成に関与する多様なP450ファミリーの機能の紹介 M1 RongYu

2012/06/28 16:53 に Takashi Matsuo が投稿
2012.7.6 


シトクロムP450は微生物から植物、動物まで生物界に広く分布する一群のヘムタンパク質で、還元型で一酸化炭素と結合して450nmに極大をもつ特徴的な吸収スペクトルを示す酸化酵素のファミリーである(1、2)。生物種によってゲノム上のP450遺伝子の数が大きく異なることが特徴で、ヒトでは、少なくとも57種(3)、植物では候補も含めれば400種以上が知られているのに対し、大腸菌(Escherichia coli)からの報告はない(4)。

P450はモノオキシゲナーゼ、一原子酸素添加酵素と呼ばれていて、一般に真核生物では、小胞体とミトコンドリアで主に発現している(1)。多くのP450は、500アミノ酸残基程度で、活性中心にヘムと呼ばれる鉄原子を持ち、その鉄原子の酸化還元電位の変化で、基質を酸化し、生成物に酸素原子を挿入する反応を触媒している。例えば、ヒトでは、アラキドン酸を出発化合物とする様々な脂肪酸派生物の生合成系の中心として、P450が寄与している(5)。

1970年代と1980年代の間、ものすごく膨大な数のP450が次々と精製され(主に哺乳類から)、研究者ごとに独自の命名がなされて分類が混乱した(1)。後にアミノ酸配列情報に基づいてP450遺伝子の相同性が40%以上のものをファミリー、55%以上のものをサブファミリーに分類する命名法が提案された(3、6)。そして、この分類命名法がその後若干の修正を加えられながら広く現在まで用いられることになった。但し、この分類命名法はアミノ酸配列の相同性に基づいており、P450の酵素の機能における性質について情報が含まれていないことに注意が必要である(1)。

昆虫では、ゲノム解析の結果(7)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)にはP450遺伝子は90種存在し、そのうち機能が明らかとされているのは83種で、7種は偽遺伝子であることが判明している(8)。昆虫のP450は、半数以上がCYP4とCYP6のファミリーに属し、現在のところCYP6は昆虫特有であるといわれている(8)。P450が触媒する反応は昆虫の発育調節とともに、外来性物質に対する防御機構などに関与しており、昆虫の生理機能の面で極めて重要な役割を果たしている(1、9、10)。

また、昆虫では、P450は殺虫剤の毒素と代謝に関連した古い歴史がある。殺虫剤に対して抵抗性を示す昆虫系統では、感受性の系統に比べP450が過剰に発現されていることが報告されており、イエバエのCYP6A1とCYP6D1、ショウジョウバエのCYP6A2とCYP6A8、鱗翅目昆虫のCYP9A1とCYP6B7などがある(1、11)。これにより、P450は、毒物・薬物の代謝、すなわち分解作用に注目されてきた。

ところが、近年の分子生物学の進歩は、多くの生合成に関与したP450の存在を明らかにしている。例えば、幼若ホルモン生合成系ではエポキシ環を持ち、このエポキシ化をP450が触媒している(9、10)。フェロモン生合成系では、イエバエ雌が分泌する性フェロモンの主成分である(Z)-9-トリコセンは、炭素数が一つ多いテトラコセニルCoAから(Z)-15-テトラコセナールを経て、アルデヒド基のP450によるユニークな脱ホルミル化反応によって生成される(12)。そして最近、標識追跡実験により、アメリカシロヒトリ(Hyphantria cunea)の性フェロモン生合成経路においてアルケン化合物を酸化するエポキシ化酵素の存在が示唆されている(13)。

一般に生合成反応は、生体反応に不要なものを作らないため、昆虫で解毒、代謝に専門化したと考えられるP450が高い選択性(基質、立体選択性など)を示すところが興味深い。このゼミでは、昆虫のP450に関して選択性を中心に紹介し、議論したい。


(1)Scott J.G.,1999.Cytochromes P450 and insecticide resistance.Insect Biochemistry and Molecular Biology.29,757?777.

(2)Werck-Reichhart D.,Feyereisen R.,2000.Cytochromes P450: a success story. Genome Biology.I(6),reviews3003.1?3003.9.

(3)Bernhardt R.,2004.Cytochrome P-450.Encyclopedia of Biological Chemistry.1,544-549

(4)大村恒雄,石村巽,藤井義明,ed.P450の分子生物学.講談社Press,2003.

(5)Zeldin D.C.,2001. Epoxygenase Pathways of Arachidonic Acid Metabolism. The Journal of Biological Chemistry.276,36059-36062.

(6)Nebert D.W.,Adesnik M.,Coon M.J.,Estabrook R.W.,Gonzalez F.J.,Guengerich F.P.,Gunsalus I.C.,Johnson E.F.,Kemper B.,Levin W.,Phillips I.R.,Sato R.,Waterman M.R.,1987.The P450 Gene Superfamily:Recommended Nomenclature.DNA.6,1-11.

(7)Adams M.D.,ほか98名,2000.The Genome Sequence of Drosophila melanogaster.Science.287,2185-2195.

(8)Tijet N.,Helvig C.,Feyereisen R.,2001.The cytochrome P450 gene superfamily in Drosophila melanogaster:Annotation, intron-exon organization and phylogeny.Gene. 262,189-198.

(9)Helvig C.,Koener J.F.,Unnithan J.C.,Feyereisen R.,2003.CYP15A1, the cytochrome P450 that catalyzes epoxidation of methyl farnesoate to juvenile hormone III in cockroach corpora allata.Proceedings of the National Academy of Sciences.101,4024-4029.

(10)Daimon T.,Kozaki T.,Niwa R.,Kobayashi I.,Furuta K.,Namiki T.,Uchino K.,Banno Y.,Katsuma S.,Tamura T.,Mita K.,Sezutsu H.,Nakayama M.,Itoyama K.,Shimada T.,Shinoda T.,2012.Precocious Metamorphosis in the Juvenile Hormone-Deficient Mutant of the Silkworm, Bombyx mori.PLoS Genetics.8,issue 3,e1002486.

(11)Carino F.A.,Koener J.F.,Plapp Jr F.W.,Feyereisen R.,1994. Insect Biochemistry and Molecular Biology.24,411-418.

(12)Reed J.R.,Quilici D.R.,Blomquist G.J.,Reitz R.C.,1995.Proposed Mechanism for the Cytochrome P450-Catalyzed Conversion of Aldehydes to Hydrocarbons in the House Fly, Musca domesticat.Biochemistry.34,16221-16227.

(13)Kiyota R.,Arakawa M.,Yamakawa R.,Yasmin A.,Ando T.,2011.Biosynthetic pathways of the sex pheromone components and substrate selectivity of the oxidation enzymes working in pheromone glands of the fall webworm, Hyphantria cunea.Insect Biochemistry and Molecular Biology.41,362-369.
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