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ガ類昆虫を中心とした不飽和化酵素の多様性 M1 光嶋脩剛

2012/06/10 17:48 に Takashi Matsuo が投稿
2012年6月15日

 チョウ目ガ類の不飽和化酵素は、酵素遺伝子がゲノムDNA上に多コピー存在する多重遺伝子族であり、基質となる長鎖脂肪族化合物に対する触媒機能と酵素自身のアミノ酸の一次構造に基づいて5つのグループに大別されている(1)。その5つのグループとは、炭素数16の化合物を炭素数18の化合物よりも優先的に不飽和化する9位不飽和化酵素Δ9(16>18)、炭素数18の化合物を炭素数16の化合物よりも優先的に不飽和化するΔ9(18>16)、幅広い炭素数の化合物を不飽和化するΔ9(14-26)、14位不飽和化酵素であるΔ14と、11位不飽和化活性のみに留まらず多様な触媒機能を示すΔ11グループである(1、2)。Δ11と呼ばれるグループに含まれる不飽和化酵素群が、酵素活性の面において他の4グループに比べて更に多様性に富んでいる例として、カイコガ Bombyx mori のフェロモン腺で発現している、基質の11位の炭素-炭素結合に二重結合を導入した後1,4脱離反応によって10位と12位へ二重結合をシフトさせ、結果として異なる2つの反応を触媒するものが同定されている(3)。また、ナミスジフユナミシャク Operophtera brumata では、Δ11グループに属するにも関わらず、基質化合物の末端の炭素-炭素結合への二重結合挿入を触媒する酵素が報告されている(4)。昆虫ではないがキク科植物 Crepis alpina と Crepis palaestina で発現が確認された不飽和化酵素の中には、炭素-炭素単結合への二重結合の導入だけでなく、二重結合を三重結合へ変換する反応、基質分子内に水酸基を付加する反応、エポキシ基を導入する反応を触媒するものがあることが明らかとされた(5)。

 これら多様な不飽和化酵素ではあるが、構造はヒスチジンリッチなアミノ酸モチーフを活性中心に持ち膜たんぱく質であるという共通の性質をもつ(6)また、アミノ酸配列の特定の領域の4残基により定義されたシグネイチャーモチーフが存在し、そのアミノ酸配列から酵素の機能が予測できる傾向がある(6)。例えばΔ9(18>16)はNPVE、Δ9(16>18)はKPSEが主であることが分かっている。しかし、Δ11を示すシグネイチャーモチーフは主にxxxQであるが、例外的にLPAEを示すΔ11も報告されている(2)。この点においてもΔ11は多様化しており、未整理のグループであるといえる。

 Δ11グループの不飽和化酵素遺伝子は、ガ類のフェロモン腺で主に発現していることが、複数の研究によって報告されている(2、7)。他のグループに属する不飽和化酵素遺伝子は、Δ14グループを除いて、主に脂肪体で発現している。そのため、Δ11グループの不飽和化酵素は、フェロモンの多様性を生み出すために進化してきたと考えられている(8)。

 Δ11やΔ14グループに属する酵素遺伝子、つまりフェロモン生合成に関与する遺伝子は、アミノ酸レベルでの進化速度が脂質代謝に関わるΔ9(16>18)よりも速いという(9)。Δ11グループの遺伝子の速い進化は、グループ内での多様化と何らかの関係があるかもしれない。また、ゲノム上に存在する不飽和化酵素遺伝子の中には転写されていない遺伝子が複数存在し、それらの生物学的意味については未だ議論が続いている(2、10、11)。ゲノムDNA上に存在する、転写されていない不飽和化酵素遺伝子のホモログは、新しい活性を有する不飽和化酵素の倉庫となっている可能性があるのではないだろうか?(2)


(1) Rooney AP.(2009) Evolution of moth sex pheromone desaturases. Ann. N.Y. Acad. Sci. 1170:506-510

(2) Liu W., Rooney AP., Xue B. & Roelofs WL.(2004) Desaturases from the spotted fireworm moth (Choristoneura parallela) shed light on the evolutionary origins of novel moth sex pheromone desaturases. Gene.342:303-311

(3)Moto K., Suzuki MG., Hull JJ., Kurata R., Takanashi S., Yamamoto M., Okano K., Imai K., Ando T. & Matsumoto S.(2004) Involvement of a bifunctional fatty-acyl desaturase in the biosynthesis of the silkmoth, Bombyx mori, sex pheromone. PNAS.101:8631-8636

(4)Ding BJ., Lienard MA., Wang HL., Zhao CH. & Lofstedt C.(2011) Terminal fatty-acyl-CoA desaturase involved in sex pheromone biosynthesis in the winter moth (Operophtera burumata). Insect Biochem. Mol. Boil.39:90-95

(5)Lee M., Lenman M., Banas A., Bafor M., Singh S., Schweizer M., Nilsson R., Liljenberg C., Dahlqvist A., Gummeson PO., Sjodahl S., Green A. & Stymne S.(1998) Identification of non-heme diiron proteins that catalyze triple bond and epoxy group formation. Science.280:915-918

(6)Knipple DC., Rosenfield CL., Nielsen R., You KM. & Jeong SE.(2002) Evolution of the integral membrane desaturase gene family in moths and flies. Genetics.162:1737-1752

(7)Jeong SE., Rosenfield CL., Marsella-Herrick P., You KM. & Knipple DC.(2003) Multiple acyl-CoA desaturase-encoding transcripts in pheromone glands of Helicoverpa assulta, the oriental tobacco budworm. Insect Biochem. Mol. Biol.33:609-622

(8)Roelofs WL., Liu W., Hao G., Jiao H., Rooney AP. & Linn Jr. CE.(2002) Evolution of moth sex pheromones via ancestral genes. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A.99:13621-13626

(9) Roelofs WL. & Rooney AP.(2003) Molecular genetics and evolution of pheromone biosynthesis in Lepidoptera. PNAS. 100:9179-9184

(10)Fujii T., Ito K., Tatematsu M., Shimada T., Katsuma T. & Ishikawa Y.(2011) Sex pheromone desaturase functioning in a primitive Ostrinia moth is cryptically conserved in congeners’ genomes. PNAS. 108: 7102-7106.

(11) Rooney A., P.(2011) Pheromone emergenicies and drifting moth genomes. PNAS. 108: 8069-8070.
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