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何がなわばりを形成する要因になるのか~トンボを例に~ 修士2年 吉水敏城

2018/06/05 22:04 に Toshiki Yoshimizu が投稿

“なわばり”( テリトリー、territory ) とは、「個体あるいは個体のグループが、明らかな防衛行為や誇示によって、多少とも排他的に占有する地域( Wilson, 1975 ; Davies, 1978a )」 と定義される。なわばりを保持すると、その中の資源を独占的に利用できることや、オスがメスと遭遇しやすくなるなどの利益 (benefit) がある一方、他個体の侵入の頻度が増して、なわばりを防衛するためにエネルギーを消費してしまうという不利益 (cost) もある。利益と不利益の双方で決まるなわばり行動は、動物の生存戦略を考えるうえで非常に重要である[1]今回は、昆虫の中でもなわばり制を最も発展させたグループであるトンボ類を例にとり、何がなわばりを形成する要因になるのかを見ていく。

 なわばりが作られる場所の“質”[2]と“ランドマーク”(landmark目印)[3]に着目した研究がある。場所の質を人為的操作することによって、なわばりを持たない個体は、常に質の高い場所付近を飛び回り、その場所をなわばりに持つ個体からなわばりを常に奪おうとしていることが明らかになった。別の種ではランドマークをうまく利用することによりなわばりをより強固なものにしていることも分かった。以上からなわばり形成には場所の質やランドマークなどの環境要因がかかわっているといえる。また、体長と脂肪量、飛翔筋量が多い個体がなわばりを持つ傾向にあり[4][5]個体要因もなわばり形成にかかわっているといえる。さらに、人為的に昆虫幼若ホルモン類似薬であるメトプレン処理を施した研究[6]と疑似的にウイルス感染をさせた研究[7]がある。なわばりを持たない個体にメトプレン処理を施すと闘争行動をして強くなわばり行動をするようになったが、なわばりを持つ個体にメトプレン処理を施してもなわばり行動に変化はなかった。このことにより、なわばりを持つ個体は高いホルモンレベルを持つことが明らかになった。また、疑似的ウイルス感染させた個体では、なわばりを持っている個体の年齢にかかわらず、なわばりを守るようになった。これは、生理的条件が悪化するに伴い、なわばり持つことによって得られる利益を守ろうとすることが働いたからだと考えられる。これらの結果は、生理的要因もなわばりの形成にかかわっていることを示している。

 以上の研究から環境要因、個体要因、生理的要因の3つがなわばりの形成にかかわっていることがわかった。これらに加えて、「他個体との相互作用」も要因になるのではと考える。なわばりは、同種他個体に対して防衛されるものであり、過去に他個体と闘争行動を行い、勝敗が決まったという経験は、なわばり形成に大きく影響を与えるからだ。また、メスとの交尾行動後どうなるのか、なわばりにオスとメスが同時になわばりに入ったときにはなわばり形成にはどのような影響があるかは不明である。「他個体との相互作用」を考慮することは、3つの要因と複雑に絡み合う非常に難しいことだが、なわばり形成の更なる理解につながると期待できる。

Reference

[1]  J. R. Potts and M. A. Lewis, “How do animal territories form and change? Lessons from 20 years of mechanistic modelling.,” Proceedings. Biol. Sci., vol. 281, no. 1784, p. 20140231, Jun. 2014.

[2]  M. J. Gołąb, S. Śniegula, S. M. Drobniak, T. Zając, and M. A. Serrano-Meneses, “Where do floaters settle? An experimental approach in odonates,” Anim. Behav., vol. 86, no. 5, pp. 1069–1075, Nov. 2013.

[3]  J. A. Lojewski and P. V. Switzer, “The role of landmarks in territory maintenance     by the black saddlebags dragonfly, Tramea lacerata,” Behav. Ecol. Sociobiol.,     vol. 69, no. 3, pp. 347–355, Mar. 2015.

[4]  M. A. Serrano-Meneses, A. Córdoba-Aguilar, V. Méndez, S. J. Layen, and T. Székely, “Sexual size dimorphism in the American rubyspot: male body size predicts male competition and mating success,” Anim. Behav., vol. 73, no. 6, pp. 987–997, Jun. 2007.

[5]  G. Raihani, M. A. Serrano-Meneses, and A. Córdoba-Aguilar, “Male mating tactics in the American rubyspot damselfly: territoriality, nonterritoriality and switching behaviour,” Anim. Behav., vol. 75, no. 6, pp. 1851–1860, Jun. 2008.

[6]  A. Córdoba-Aguilar and R. Munguía-Steyer, “To be or not to be? Mating success and survival trade-offs when switching between alternative reproductive tactics,” J. Evol. Biol., vol. 28, no. 11, pp. 2119–2124, Nov. 2015.

[7]  D. M. González-Tokman, I. González-Santoyo, and A. Córdoba-Aguilar, “Mating success and energetic condition effects driven by terminal investment in territorial males of a short-lived invertebrate,” Funct. Ecol., vol. 27, no. 3, pp. 739–747, Jun. 2013.

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