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「婚姻贈呈を行う昆虫におけるメスの空腹状態と交尾受容性の関係」 修士1年 安藤 優樹

2017/07/10 19:32 に Yuki Ando が投稿
 昆虫のメスの交尾受容性は空腹度合いによって変動することがある。前回のセミナーでは、肉食性のアメンボやクモ類の多くでメスが空腹状態のとき交尾受容性は低下するというトレードオフが観察されることを紹介した。今回のセミナーでは、肉食性ではない昆虫のうち、特に婚姻贈呈を行う種においてメスの空腹状態と交尾受容性の関係を調べた研究例を取り上げる。

 婚姻贈呈とは、交尾に際してオスがメスに資源として利用できる何らかの物質を与える行動で、贈呈を受けたメスには寿命の延長[1][2][6]や産卵数の増加[2~5]といった様々な利益がもたらされる。ただし、何を贈呈するかは種によって異なり、例えば肉食性のシリアゲムシでは捕獲した小昆虫を、肉食性ではないキリギリスでは栄養分に富んだ分泌物[1][2]をオスが与え、メスがこれらを摂食する。したがって、婚姻贈呈を行う種では、栄養分に対する要求が強い、すなわち空腹状態にあるメスは、贈呈品を求めてより積極的に交尾を行うようになるだろうと予想される。実際、ショウジョウバエの一種Drosophila subobscuraのオスは、交尾の際に腸管内容物を吐き戻してメスに与える習性を持つが、Elinaらは、空腹状態のメスは多くの吐き戻しを与えてくれるオスを選んで交尾する傾向が強くなると報告している[5]。

 一方で、婚姻贈呈には精包というオスの精子と付随物質を含んだカプセルをメスが交尾器から取り込んで分解・吸収するパターンも知られている。Foxらはヨツモンマメゾウムシを用いて、絶食および水または砂糖水を与えて飼育した全3グループのメスに対してオスをペアリングした。すると、栄養状態の悪いメスほど交尾受容性が高くなった[6]。また、Ursprungらが絶食および水、砂糖水、乾燥酵母を与えた全4グループのメスを用いて同様の実験を行ったところ、水や砂糖水を与えられたメスでは交尾頻度が下がる結果が得られた[7]。これらの結果についてFoxらは、空腹状態にあるメスは子孫を残すためではなく、オスの精液付随物質という栄養分ほしさに交尾受容性を高めるのではないかと述べている[6]。またUrsprungらは、実験結果とヨツモンマメゾウムシが非常に乾燥した環境で生活する種であることを鑑み、栄養分よりも水分に対する要求が強いのではないかと説明している[7]。

 以上のように、婚姻贈呈を行う種において、空腹状態のメスは確かにオスの交尾を積極的に受容するようになるということが示されている。しかしながら、オスの贈呈物が精包である場合については、それを婚姻贈呈という枠組みで考えてよいかどうかについては疑問が残る。すなわち、婚姻贈呈を行うとは認識されていない種においても精子・精液はメスに対して普遍的に何らかの利益をもたらしている可能性があるということである。したがって、精子・精液の「資源としての側面」に注意を払うことが、メスの空腹状態と交尾受容性の関係について考える上で重要であるといえる。

References
[1] D. M. Burpee and S. K. Sakaluk, “Repeated matings offset costs of reproduction in female crickets,” Evol. Ecol., vol. 7, no. 3, pp. 240–250, 1993. 

[2] W. D. BROWN, “Courtship feeding in tree crickets increases insemination and female reproductive life span,” Anim. Behav., vol. 54, no. 6, pp. 1369–1382, 1997.

[3] L. Engqvist, “Nuptial food gifts influence female egg production in the scorpionfly Panorpa cognata,” Ecol. Entomol., vol. 32, no. 3, pp. 327–332, 2007.

[4] K. ichi Harano et al., “The significance of multiple mating and male substance transferred to females at mating in the white grub beetle, Dasylepida ishigakiensis (Coleoptera: Scarabaeidae),” Appl. Entomol. Zool., vol. 47, no. 3, pp. 245–254, 2012.

[5] E. Immonen, A. Hoikkala, A. J. N. Kazem, and M. G. Ritchie, “When are vomiting males attractive? Sexual selection on condition-dependent nuptial feeding in Drosophila subobscura,” Behav. Ecol., vol. 20, no. 2, pp. 289–295, 2009.

[6] C. W. Fox and J. Moya-LaraÑo, “Diet affects female mating behaviour in a seed-feeding beetle,” Physiol. Entomol., vol. 34, no. 4, pp. 370–378, 2009.

[7] C. Ursprung, M. Den Hollander, and D. T. Gwynne, “Female seed beetles, Callosobruchus maculatus, remate for male-supplied water rather than ejaculate nutrition,” Behav. Ecol. Sociobiol., vol. 63, no. 6, pp. 781–788, 2009.

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