Home‎ > ‎研究内容‎ > ‎大学院セミナー‎ > ‎

精子の放出タイミングをコントロールしているのは誰なのか?

2017/12/13 21:55 に Kazuyoshi Minekawa が投稿   [ 2019/05/02 21:53 に更新しました ]

 多くの昆虫においてメスは複数のオスと交尾をし、オス同士は受精を巡ってメスの生殖巣内で争いを繰り広げる。また、いくつかの種ではその競争において後に交尾をしたオス(2nd male)が先に交尾をしたオス(1st male)に比べて有利であることが知られており、この現象はsperm precedenceと呼ばれている。1990年代後半、キイロショウジョウバエにおいてもsperm precedenceに関する研究が盛んに行われた。キイロショウジョウバエのsperm precedenceを引き起こすメカニズムとして、2nd maleの射精によってメスの貯精器官に残っていた1st maleの精子が押しのけられるdisplacement[1]2nd maleの精液に含まれる精漿によって1st maleの精子が機能を失うincapacitation[24]2つの仮説が提唱された。しかし、当時の技術ではsperm precedenceの詳しいメカニズムを明らかにすることができず、それらの仮説が正しいのかどうかは曖昧なままであった。

2000年に入り、分子生物学の進歩によってsperm precedenceに関する研究は加速する。2004年、SnookHoskenは貯精器官内における精子の状態を観察することで、今まで考えられてきたsperm precedenceの仮説を大きく覆した[5]。彼らの発見はincapacitationの存在を否定し、またメスの貯精器官から1st maleの精子が放出されるdumpingというsperm precedenceに影響を与える新たなメカニズムを提示することとなった。続いて2010年、Manierらはdumpingのメカニズムが貯精器官から子宮に放出するreleaseと子宮から体外に放出するejection2段階で行われていることを明らかにした[6]。さらにejectionにフォーカスして研究は掘り下げられていく。2013年、Lüpoldらはejectionが行われるタイミングが遅くなればなるほど2nd malesperm precedenceは強くなるといった相関関係にあることを示した[7]2015年にはejectionが正常に作用するためにメスの神経回路が関与していることや[8]、オスの精漿が子宮の出入り口で凝固し蓋をする交尾栓の存在が重要であることも明らかになった[9,10]

これまでの研究によってejectionsperm precedenceに影響を与える重要なメカニズムであり、またメスとオスは両者ともejectionの作用に関与していることが分かってきた。しかし重要なのはejectionという行動が誰にとって適応的なのかであり、プレイヤーの適応度に影響を与えるejectionのタイミングが何によって制御されているのか未だ明らかになっていない。これからの研究でejectionのタイミングをコントロールしているのはオスなのかメスなのか、はたまた誰もコントロールすることはできないのか、それらを明らかにすることができればejectionの進化してきた背景も明瞭になってくるだろう。


References

[1] Lefevre G, Jonsson UB (1962) Sperm transfer, storage, displacement, and utilization in Drosophila melanogaster. Genetics 47: 17191736

[2] Scott D, Richmond RC (1990) Sperm loss by remating Drosophila melanogaster females. J Insect Physiol 36: 451456

[3] Harshman LG, Prout T (1994) Sperm displacement without sperm transfer in Drosophila melanogaster. Evolution 48: 758766

[4] Price CSC, Dyer KA, Coyne JA (1999) Sperm competition between Drosophila males involves both displacement and incapacitation. Nature 400: 449452

[5] Snook RR, Hosken DJ (2004) Sperm death and dumping in Drosophila. Nature 428: 939941

[6]* Manier MK et al. (2010) Resolving mechanisms of competitive fertilization success in Drosophila melanogaster. Science 328: 354357

[7]* Lüpold S et al. (2013) Female mediation of competitive fertilization success in Drosophila melanogaster. Proc Natl Acad Sci USA 110: 1069310698

[8] Lee KM et al. (2015) A neuronal pathway that controls sperm ejection and storage in female Drosophila. Curr Biol 25: 790797

[9] Avila FW et al. (2015) Retention of ejaculate by Drosophila melanogaster females requires the male-derived mating plug protein PEBme. Genetics 200: 11711179

[10] Avila FW et al. (2015) Don’t pull the plug! The Drosophila mating plug preserves fertility. Fly 9: 6267 

*過去に紹介済みの論文。

Comments