Home‎ > ‎研究内容‎ > ‎大学院セミナー‎ > ‎

カワトンボにおける性的装飾の形質置換 D3 小島渉

2012/11/01 17:13 に Takashi Matsuo が投稿
2012.11.9

 ヨーロッパアオハダトンボCalopteryx splendensのオスの羽には黒班がみられる。この黒班の大きさは、個体群により大きく異なる。いっぽう、同所的に分布する近縁種であるアオハダトンボC. virgoのオスは、羽全体が黒い。C. splendensにおける黒班の大きさは、C. virgoの相対生息密度と負の相関をもつことが知られている(形質置換)(1)。このようなパターンはなぜ生じるのだろうか。
 まず、C. splendensのみが生息する地域で、黒班の大きさと交尾成功の関係を野外において調べたところ、黒班の大きいオスほど、多くの配偶者を獲得していた(2)。また、黒班の大きなオスをメスは好んだ(3,4)。つまりオスの黒班は性淘汰形質であると考えられる。メスは、大きな黒班をもつオスとつがうことで、良い産卵場所や、遺伝的な利益(高い免疫能)を得られることも示唆されている(4,5)。
 ところが、近縁種C. virgoと分布が重複する地域では、大きな黒班を持つオスのC. splendensは、2つの理由で不利となった。まず、それらのオスは、より力の強い、C. virgoのオスから激しく攻撃されるので、長生きできない(6,7)。これは、C. virgoのオスが、大きな黒班をもつC. splendensを、同種のライバルだと‘勘違い’するためかもしれない。実際に、2種の分布重複域では、C. splendensの黒班の大きさと寿命との間に負の関係がみられたが、C. virgoのオスを調査地から人為的に除去すると、その関係は失われた(7)。ふたつめの理由は、分布重複域のメスのC. splendensは、単独分布域のものとは逆に、黒班の小さいオスを選り好むからである(3)。メスは、間違えてC. virgoのオスと交尾するリスクを避けているのかもしれない。興味深いことに、C. virgoのオスと一緒に育てられたC. splendensのメスは、黒班の大きい同種オスとの交尾をより避けるようになることもわかった。つまり、分布重複域における、黒班の小さいオスに対する選り好みには学習が関わっている可能性がある(3)。
 以上のことから、C. splendensにおける性的装飾の形質置換は、可塑的なメスの選り好みと、近縁種C. virgoのオスからの干渉によってひきおこされることが明らかとなった。

1.      Honkavaara, J., Dunn, D. W., Ilvonen, S., Shhonen, J. 2011. Sympatric shift in a male sexual ornament in the damselfly Calopteryx splendens. J. Evol. Biol. 24:139-145.
2.      Svensson, E. I., Kristoffersen, L., Oskarsson, K., Bensch, S. 2004. Molecular population divergence and sexual selection on morphology in the banded demoiselle (Calopteryx splendens). Heredity 93:423-433.
3.      Svensson, E. I., Eroukhmanoff, F., Karlsson, K., Runemark, A., Brodin, A. 2010. A role for learning in population divergence of mate preferences. Evolution 64:3101-3113.
4.      Siva-Jothy, M. 1999. Male wing pigmentation may affect reproductive success via female choice in a Calopterygid damselfly (Zygoptera). Behaviour 136:1365-1377.
5.      Rantala, M. J., Koskimaki,, J., Taskinen, J., Tynkkynen, K., Suhonen, J. 2000 Immunocompetence, developmental stability and wingspot size in the damselfly Calopteryx splendens. Proc. R. Soc. Lond. B 267, 2453-2461.
6.      Tynkkynen, K., Rantala, M. J., Suhonen, J. 2004. Interspecific aggression and character displacement in the damselfly Calopteryx splendens. J. Evol. Biol. 17:759-767.
7.      Tynkkynen, K., Kotiaho, J. S., Luojumaki, M., Suhonen,. J. 2005. Interspecific aggression causes negative selection on sexual characters. Evolution 59:1838-1843.

Comments