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キイロショウジョウバエの求愛行動における音と振動の役割 修士課程1年 瀬戸口栞

2013/05/29 20:41 に ユーザー不明 が投稿   [ 2013/06/13 4:32 に更新しました ]

2013610日 

キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)のオスが示す求愛行動はいくつかの要素から構成されており、orientationfollowingtappingwing vibrationlickingattempting copulationの各行動要素を段階的に提示することにより交尾に至る(1)。求愛を受けたメスは当初素早くオスから逃げまわるが、次第に動きが鈍くなりその後交尾が成立するため、活動性の低下はメスが交尾を受容したことの指標であると捉えられてきた。

オスの求愛行動要素のうち、wing vibrationによって生成される「求愛歌」は音波として空気中を伝わり、メスの触角で感知されて交尾受容性を高める役割を果たす(2,3)。求愛歌は、連続した正弦波からなるsine songと不連続な高振幅の波形(パルス)を持つpulse songという2つの要素から構成されているが(2)、メスの活動性を低下させるためにはpulse songsine songを交互に混合した歌が最も効果的であった(4)。一方で単位時間当たりの交尾率は、sine songの有無に関わらずpulse songの頻度が高くなるほど上昇した(2)。これらの結果は、メスの活動性低下に効果を持つシグナルと交尾成立に直接関わるシグナルが同じではない可能性を示唆している。求愛歌はキイロショウジョウバエの近縁種においても観察されるが、pulse song中のパルス間の長さやパルス頻度は種ごとに異なっている。これらの違いはメスによって同種オスの認識のために利用されていると古典的には考えられてきた。この場合、他種の求愛歌は交尾を抑制する効果を持つと予想される。しかし実際には、他種の求愛歌は無音条件に比べてむしろ交尾率を上昇させる(5,6)ため、求愛歌は他種のオスとの交配を避けるために利用されているとは考えにくく、他の生態学的な役割を持つ可能性がある。

昆虫では、空気中を伝わる音以外にも基質を介した振動がコミュニケーション手段としての機能を果たしている。例えばトビイロウンカはイネの葉を介した振動を雌雄間でやり取りし交尾に至る(7)。このような振動シグナルはキイロショウジョウバエではこれまで知られていなかった。ところが最近、オスが腹部を震わせて振動を発するquiveringという行動がメスの活動性の低下に関与していることが報告された(8)。求愛行動におけるオスのquiveringは、近縁種のD. yakubaD. sechelliaでも認められた。このことから、これまで見過ごされてきたものの、多くのショウジョウバエがquiveringを行っている可能性が示唆された。それを裏付けるように、過去の文献にはハワイに生息する数種のショウジョウバエのオスが求愛行動において腹部振動を行うという記述も認められる(9)

ショウジョウバエの求愛歌に関するこれまでの実験においては振動シグナルの影響が全く考慮されてこなかったため、求愛歌の効果とquiveringによる振動の効果が混同されている恐れがある。音と振動は伝わり方が異なるが、生成の仕組みや受容機構は共通している場合もあるため区別は容易ではない。両者を区別して解析するためには研究手法の見直しが必要であると考えられる。またquiveringによる振動シグナルがメスの活動性を低下させることは確かめられたが、活動性の低下が交尾に直接結びついているのかについては議論の余地が残る。quiveringの振動を機械的に再生するといった実験による確認が期待される。

 

 

References

 

1. MCBRIDE, S.M.J., HOLLOWAY, S.L. and JONGENS, T.A., 2013. Using Drosophila as a tool to identify pharmacological therapies for fragile X syndrome. Drug Discovery Today: Technologies, 10(1), pp. e129-e136.

2. TALYN, B. and DOWSE, H., 2004. The role of courtship song in sexual selection and species recognition by female Drosophila melanogaster. Animal Behaviour, 68, pp. 1165-1180.

3. KAMIKOUCHI, A., INAGAKI, H.K., EFFERTZ, T., HENDRICH, O., FIALA, A., GOEPFERT, M.C. and ITO, K., 2009. The neural basis of Drosophila gravity-sensing and hearing. Nature, 458(7235), pp. 165-U1.

4. CROSSLEY, S., BENNETCLARK, H. and EVERT, H., 1995. Courtship Song Components Affect Male and Female Drosophila Differently. Animal Behaviour, 50, pp. 827-839.

5. TOMARU, M., DOI, M., HIGUCHI, H. and OGUMA, Y., 2000. Courtship song recognition in the Drosophila melanogaster complex: Heterospecific songs make females receptive in D-melanogaster, but not in D-sechellia. Evolution, 54(4), pp. 1286-1294.

6. KYRIACOU, C. and HALL, J., 1982. The Function of Courtship Song Rhythms in Drosophila. Animal Behaviour, 30(AUG), pp. 794-801.

7. BUTLIN, R., 1993. The Variability of Mating Signals and Preferences in the Brown Planthopper, Nilaparvata-Lugens (Homoptera, Delphacidae). Journal of Insect Behavior, 6(2), pp. 125-140.

8. FABRE, C.C.G., HEDWIG, B., CONDUIT, G., LAWRENCE, P.A., GOODWIN, S.F. and CASAL, J., 2012. Substrate-Borne Vibratory Communication during Courtship in Drosophila melanogaster. Current Biology, 22(22), pp. 2180-2185.

9. HOIKKALA, A. and WELBERGEN, P., 1995. Signals and Responses of Females and Males in Successful and Unsuccessful Courtships of 3 Hawaiian Lek-Mating Drosophila Species. Animal Behaviour, 50, pp. 177-190.

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