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コオロギの闘争行動と神経内分泌機構 修士課程1年 工藤 愛弓

2013/06/13 4:33 に Ayumi Kudo が投稿   [ 2013/06/13 18:18 に更新しました ]
2013年6月24日
 
 コオロギのオスは野外で様々な資源をめぐり闘争をすることが知られている。闘争性やその後の行動にもたらす影響、持続時間などはどのような環境・体内制御機構によってもたらされているのだろうか。
 

コオロギは野外での交戦後、劣位のオスの行動が闘争的なものから逃走的なものに変化することが知られている。一度闘争を経験すると、劣位のオスは劣位の初対面のオスのみに闘争行動を示したのに対し、優位のオスは初対面、対面したことのあるオスにも闘争行動を示した。つまり、相手の順位によって可塑的に闘争行動を変化させていた(1)。またメスでも闘争や逃走行動には、闘争からの時間の経過によって変化がみられ、オスと同様に相手の行動によって自らの行動を変化させることが示唆された(2)。

 

闘争行動も含め、動物における様々な行動は神経内分泌機構によって駆動される。コオロギではoctopaminedopamineserotoninとその前駆体、代謝物が神経から見つかり、神経系全体ではdopamine29倍のoctopamineが存在することがわかっている(3)。

 

神経内におけるこれらの生体アミンの存在量は混み合いなどによって変化し、闘争行動もそれに伴って変化する。たとえば飼育条件下で混み合いにさらした群生個体では、生体アミンの前駆体と代謝産物が個別に飼育した孤独個体よりも有意に多くなり、アラタ体ではserotonin、側心体ではdopamineがより多くなった。対照的に孤独個体においてはN-acetyldopamine量が有意に多くなった。また闘争行動について着目すると、群生個体に比べ孤独個体でより闘争しやすくなったことから、闘争性とアミン作動性システムについての関係が示唆されたが、因果関係まではわからなかった(4)。

 
生体アミンと闘争行動についての因果関係を明らかにするために、各々のインヒビターを投与することにより生体アミンの働きを抑えた場合における行動の変化について観察がおこなわれた。シナプス小胞内への生体アミンの取り込みを非選択的に抑制するリサルピンを投与されたコオロギは無気力になり、逃走行動が抑制されるが、闘争行動は活発化する。また、dopamineoctopamineを枯渇させるAMTserotoninを枯渇させるAMTPの処理では、serotoninの枯渇によって逃走行動は増加したが、dopamineoctopamineの枯渇によって逃走行動は抑制された。しかし、闘争行動についてはAMTPの影響は確認できず、AMTも効果的とはいえなかった(5)。このような生体アミンと行動との関係は各個体の経験によっても変化する。たとえば、資源の先有者は同性の侵入者に対して高い攻撃性を示すことがしられ(先住効果)、シェルターを先んじて占有したコオロギは、より強いオスを打ち負かすこともある。また、実際に闘争することなしに、相手の行動条件によって勝利経験を得たオスの闘争性は増加の一途をたどる。先住効果や勝利経験は、β-adrenergic受容体のアンタゴニストであるpropranololtyramine受容体のブロッカーであるyohimbinedopamine受容体のブロッカーであるfluphenazineでは変化がなかったが、α-adrenergic受容体のアンタゴニストであるphentolamineoctopamine受容体の高選択性ブロッカーであるepinastineによって抑制された(67)。
 

コオロギにおける闘争行動は経験によって可塑的に変化することがわかり、先住効果や勝利経験の維持には生体アミン、特にoctopaminenoradrenalineadrenalineのメカニズムが関わっていることが示唆された。しかし、生体アミンは必ずしも闘争行動の開始・継続には必要ないことが示唆されたため、闘争行動を駆動する別の機構の探索も今後必要になるだろう。

 
〈引用文献〉
1. Iwasaki, M., A. Delago, H. Nishino and H. Aonuma (2006) Effect of previous experience on the agonistic behavior of male crickets, Gryllus bimaculatus. Zoological science 23: 863-872.
2. Delago, A. and H. Aonuma (2006) Experience-based agonistic behavior in female crickets, Gryllus bimaculatus. Zoological science 23: 775-783.
3. Nagao, T. and T. Tanimura (1988) Distribution of biogenic amines in the crickets central nervous system. Analytical biochemistry 171: 33-40.
4. Iba, M., T. Nagao and A. Urano (1995) Effects of population density on growth, behavior and levels of biogenic amines in the crickets, Gryllus bimaculatus. Zoological science 12: 695-702.
5. Stevenson, A.P, H. A. Hofmann, K. Schoch and K. Schildberger (2000) The fight and flight responses of crickets depleted of biogenic amines. Developmental neurobiology 43: 107-120.
6. Rillich, J. and A. Stevenson (2011) Winning fights induces hyperaggresive via the action of the biogenic amine Octopamine in crickts. Plos one 6(12): 1-8.
7. Rillich, J., K. Schildberger and A. Stevenson (2011) Octopamine and occupancy: an  aminergic mechanism for intruder-resident aggression in crickets. Proceedings of the royal society 278; 1873-1880.
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