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クモ類の闘争における自己およびライバルの評価 博士1年 工藤愛弓

2016/01/19 21:33 に Ayumi Kudo が投稿
 ライバルからなわばりやメスなどの資源を獲得し、それらを保持するために、動物は闘争を行う。闘争を行う上で資源を獲得したり、それらを保持したりする能力はResource Holding Potential(以下、RHP)と呼ばれ、高いRHPを持つ個体は低いRHPを持つ個体よりも優位に立つ。一方、闘争にはメリットだけでなく、ケガのリスクや時間・エネルギー消費といったコストも付随する。そのため、自身のRHPやライバルのRHPを評価して比較する能力は、コストを削減し、利益を最大化するために重要であると考えられる。本セミナーでは、闘争において自己およびライバルの強さ(RHP)がどのように評価されているのかを、クモ類を例に紹介する。

 RHPを評価するための指標は、一般に体サイズが用いられていると仮定されている。つまり、より大きな個体が高いRHPを有し、闘争に勝ちやすいということであり、このことはアシナガグモの1種Metellina segmentataをはじめとする他のクモ類や昆虫に広く共通している(1)。また、闘争におけるコストは闘争時間として計測され、ライバルどうしのサイズ差が大きくなるほど、闘争時間が短くなる(1)。よって、ライバル間のRHP差が大きくなるにつれて違いが検出しやすくなることで、勝敗が短時間で決まり、闘争のコストが低くなる。このように、ライバルのRHPと自身のRHPを評価・比較して闘争時に意思決定を行う戦略は、相対評価戦略(mutual assessment strategy)と呼ばれている。しかしながら、サイズ差だけでなく、劣位個体のRHPと闘争時間との間にも相関関係があることがコガネグモの一種Metellina mengeiやハエトリグモの一種Plexippus paykulliなどで分かり、RHP差と闘争時間との負の相関関係は必ずしも相対評価戦略の証拠とはならないことが示された(2, 3)。

 そこで、闘争における評価戦略の新たな判断基準として、劣位個体のRHPと闘争時間との負相関に着目するという方法が取られるようになった(4)。例えば、RHP差が同じであるなら、大個体対中個体よりも中個体対小個体の方が闘争が長引きにくいということである。小個体は、闘争に用いることができるエネルギー量などが少ないために、闘争時間は短くなる。このように、自身のRHPのみを評価し、エネルギーやコストが閾値に達するまで闘争を行うという戦略は、自己評価戦略(self-assessment strategy)と呼ばれている。Taylor and Elwood (2003)の手法でクモ類を用いて行われた研究は自己評価戦略を支持するものが多い(5,6)。
 
 しかし、いかに視覚が優れたクモといえどもライバルの質を視認できない、と結論づけるのは尚早である。なぜなら、Lyssomanes virideisにアニメーションとしてライバルを提示する方法を用いることで、より観察条件を均一にした実験では相対評価戦略が支持されているからである(7)。また、1種が1戦略しか利用していないわけではなく、ハエトリグモの1種Neriene litigiosaのように闘争の段階ごとに異なる評価方法を用いていると示唆される種も存在している(8)。今後はまず、上記のような評価戦略の違いが種間の生態学的な違いによるものなのか、それとも実験手法によるものなのかをより精密な実験系をもちいることで明確に区別する必要があるだろう。 
 
【引用文献】
  1. Hack MA, Thompson DJ and Fernandes DM (1997) Fighting in males of the autumn spider, Metellina segmentata: effects of relative body size, prior residency and female value on contest outcome and duration. Ethology 103; 488-198.
  2. Bridge AP, Elwood RW and Dick JTA (2000) Imperfect assessment and limited information preclude optimal strategies in male-male fights in the orb-weaving spider Metellina mengei. The Royal Society Proceedings B 267; 273-279. 
  3. Taylor PW, Hasson O and Clark DL (2001) Initiation and resolution of jumping spider contests: roles for size, proximity, and early detection of rivals. Behavioral Ecological Sociobiology 50; 403-413.
  4. Taylor PW and Elwood RW (2003) The mismeasure of animal contests. Animal Bhaviour 65; 1195-1202.
  5. Constant N, Valbuena D and Rittschof CC (2011) Male contest investment changes with male body size but not female quality in the spider Nephila clavipes. Behavioural Processes 87; 218-223.
  6. McGinley RH, Prenter J and Taylor PW (2015) Assessment strategies and decision making in male-male contests of Servaea incana jumping spiders. Animal Behaviour 101; 89-95.
  7. Tedore C and Johnsen S (2015) Visual mutual assessment of size in male Lyssomanes viridis jumping spider contests. Behavioral Ecology 26; 510-518.
  8. Keil PL and Watson PJ (2010) Assessment of self, opponent and resource during male-male contests in the sierra dome spider, Neriene litigiosa: Linyphiidae. Animal Behaviour 80; 809-820.
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