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ミバエ類の産卵行動におけるsocial facilitation 越川智瑛

2011/09/29 17:47 に Takashi Matsuo が投稿
2011年10月7日(金)10:00-

 動物のある行動について、同時に同じ行動をとっている同種他個体の存在によって、その行動が引き起こされたり、行動の頻度や強度が高まったりするとき、その行動はsocial facilitatedな行動であると考えることができる。ミバエ類では、いくつかの種の産卵行動においてsocial facilitationが示唆されている(1、2、3)。
 チチュウカイミバエCeratis capitataは柑橘類、リンゴ、グアバ、コーヒーなど、きわめて多くの果実に産卵し、孵化した幼虫が果肉部分を食害する。産卵経験がない成熟メスは、ケージ内において他のメスがキンカンの果実に産卵中であると、他のメスがいないときよりも有意に高い割合で産卵管を果実に挿入した(2)。さらに、挿入の開始は他のメスが存在するときに有意に早かった(2)。つまり、他のメスの存在によって、産卵行動が促進されていると考えられた。しかし、別の報告では、チチュウカイミバエの産卵行動におけるsocial facilitationを確認することができなかった(3)。これらの研究では、果実にあけられた穴から生じる匂いによるメス誘引効果を混同している可能性があった。続く研究においては、寒天の球をパラフィンで覆ったものを用いて、匂いがない人工の果実とするなど実験に改良が加えられた(4)。その結果、他のメスが既に存在する人工果実には、有意に多くのメスが着地し、産卵行動を試みるメスの割合も有意に高くなった。条件をうまく設定すれば、チチュウカイミバエの産卵行動においてsocial faci
 litationが生じることが示された。
 じつは、チチュウカイミバエでは小さな果実内での卵密度が高まると、幼虫生存率の低下など負の影響が生じることが知られており(5)、産卵の集中化をもたらすsocial facilitationは不自然なものにも思える。
 産卵行動におけるsocial facilitationは、他のメスの存在が「何を示す手がかり」であると考えるかによって二通りの解釈が考えられる。一つは産卵場所の質が好適であることの保証であり、もう一つは資源競争が高いレベルにあることの警告である。
 この二通りの可能性を確認しようという研究が、クルミのミバエRhagoletis juglandisを用いて行われた(6)。R. juglandisのメスに小さな人工果実(低品質な産卵場所)を与え、グループで産卵させると、1匹ずつ産卵させるときよりも1匹あたりの産卵確率が高まった。一方、大きな人工果実(高品質な産卵場所)の場合はそうならなかった。つまり、R. juglandisにおいては、他のメスの存在は低品質な産卵場所への受容を高めている。この受容の高まりは、他のメスが時間的・空間的に離れた場所に存在する場合でも観察された。さらに、メスを集団で飼育した場合、個別に飼育したときに比べて個体の攻撃性は低下した。これらの結果は、R. juglandisにおいて他のメスの存在は、産卵場所の質が好適であることの保証というよりも、資源競争が高いレベルにあることの警告として認識されていることを示唆するものだと考えられる。チチュウカイミバエの産卵行動におけるsocial facilitationも、低品質な産卵場所への受容が高まったことによるものなのかもしれない。
 他のメスの存在が、産卵場所の質や資源競争のレベルを示す手がかりになっているならば、メスにとっては他のメスの行動や生理の状態を正確に把握することが重要になってくると考えられる。トウガラシミバエRhagoletis suavisの産卵行動は、他のメスの存在だけでなく、その状態にも依存しているという報告がある(7)。産卵場所へ着地するメスや産卵を開始するメスの割合は、他のメスが産卵中であるときに最も高かった。また、メスが産卵場所に着地するまでの時間や産卵を開始するまでの時間も、他のメスが産卵中であるときに最も短くなった。
 以上のように、ミバエ類においては他のメスの存在が産卵行動に影響を与える場合があり、影響の有無だけでなく、その意義や仕組みについても研究が進められつつある。

引用文献
1.      Prokopy, R.J., and Roitberg, B.D. (2001). Joining and avoidance behavior in nonsocial insects. Annual Review of Entomology 46, 631-665.
2.      Prokopy, R.J., and Duan, J.J. (1998). Socially facilitated egglaying behavior in Mediterranean fruit flies. Behavioral Ecology and Sociobiology 42, 117-122.
3.      Dukas, R., Prokopy, R.J., Papaj, D.R., and Duan, J.J. (2001). Egg laying behavior of Mediterranean fruit flies (Diptera : Tephritidae): Is social facilitation important? Florida Entomologist 84, 665-671.
4.      Rull, J., Prokopy, R.J., and Vargas, R.I. (2003). Effects of conspecific presence on arrival and use of hosts in Ceratitis capitata flies. Journal of Insect Behavior 16, 329-346.
5.      Dukas, R., Prokopy, R.J., and Duan, J.J. (2001). Effects of larval competition on survival and growth in Mediterranean fruit flies. Ecological Entomology 26, 587-593.
6.      Davis, J.M., Nufio, C.R., and Papaj, D.R. (2011). Resource quality or competition: why increase resource acceptance in the presence of conspecifics? Behavioral Ecology 22, 730-737.
7.      Pasqualone, A.A., and Davis, J.M. (2011). The use of conspecific phenotypic states as information during reproductive decisions. Animal Behaviour 82, 281-284.
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