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なぜメスは生涯に一度しか交尾をしないのか?

2018/06/05 22:09 に Kazuyoshi Minekawa が投稿   [ 2019/05/02 21:52 に更新しました ]

1948年にBatemanはメスが1回の交尾で生涯産卵するために必要な精子を得ることができ、2回目以降の交尾はメスの適応度の低下をもたらすことを発見した。しかし、Batemanの理論上ではメスにとって生涯に一度しか交尾を行わない(monandry)方が適応的であるにもかかわらず、多くの動物においてメスは複数のオスと交尾を行う(polyandry)。Polyandryのメカニズムを解明するために多くの研究が行われ、メスにとって複数のオスと交尾を行うことの適応度上におけるメリットがいくつか明らかになっている。また、Worthingtonらによってメスの複数回交尾は生涯産卵数の増加をもたらすことが明らかにされた[]。つまり、Batemanの理論ではmonandryが生態学的観点から適応的であると考えられてきたが、それに矛盾する理論やそれを覆す事実が報告されつつあるのだ。それでは、なぜmonandryというメスの交尾システムが進化してきたのだろうか。今回のセミナーではmonandryのメカニズムを理解するためにこれからどのような研究が求められるのかについて論じていきたい。

Monandryを引き起こすメカニズムの多くは交尾をしたオスが精子競争によって自らの父性が減少することを防ぐためにメスの再交尾を抑制した結果であると考えられている。オスは精漿に含まれる精巣由来物質Sex peptideSP[]、交尾栓[]、無核精子の放出[]などによってメスの交尾受容性を低下させ、再交尾を抑制していることが知られている。これらのメカニズムはオスの操作によって半強制的にもたらされるため、monandryがメスにとって適応的でなくても進化してきたことは理解できる。

一方で、メスがこれらのオスによる操作を利用して、自らの適応度の低下を防ぐために再交尾を拒否しているという考えもある。キイロショウジョウバエにおいてSPを受容するSex peptide receptorSPR)がメスの生殖巣内に存在するのだが、SPRSPに特化して反応することが発見された[, ]。つまり、メスは交尾受容性を低下させるSPの受容体を進化、維持しており、それは不必要な交尾を避けるためにSPを利用しているのではないかと考えられているのである。ただ、polyandryにもいくつかの利益がある中で、強制的ではないオスの操作を用いてメスが自ら再交尾を拒否することに疑念は残るだろう。

 これまでの研究はmonandrypolyandryのメカニズムについて適応度上の損得から説明しようする研究が主であった。しかし、2つの交尾システムはそれぞれが利益と不利益を持ち合わせているため、一概に適応度の観点から片方の交尾システムが進化してきたと説明するのは難しい。つまり、適応度以外の観点から交尾システムのメカニズムについて考察する必要がある。そういった背景の中で、神経生理学的観点からメスの体内で交尾受容性を制御しているメカニズムを明らかにしようとしている研究がいくつかある。未交尾メスにおいてオスからの求愛や性フェロモンの情報が脳に存在するpC1神経に伝達され、pC1神経から動きの鈍化や静止などのメスの交尾受容行動が引き起こされていることが明らかになった[]。また、SPの情報がSP受容神経、SAG神経を通じて脳に伝達される神経メカニズムも明らかにされた[]。これらの神経は中枢神経系に通じていることは明らかにされているが、それぞれの神経がどこで合流しているのかまでは未知のままである。これからの研究でメスの交尾受容性を制御する神経と再交尾を抑制する刺激の関係性が明らかになれば、既交尾メスの交尾システムがmonandryとなるメカニズムをより明瞭にするだろう。

 

References

[1] Worthington AM, Kelly CD (2016) Direct costs and benefits of multiple mating: Are high female mating rates due to ejaculate replenishment? Bahav Proc 124: 115122

[2] Denis B et al. (2017) Male accessory gland proteins affect differentially female sexual receptivity and remating in closely related Drosophila species. J Insect Physiol 99: 6777

[3] Baer B et al. (2001) A nonspecific fatty acid within the bumblebee mating plug prevents females from remating. Proc Natl Acad Sci USA 98: 39263928

[4] Cook PA, Wedell N (1999) Non-fertile sperm delay female remating. Nature 397: 486

[5] Yapici N et al. (2008) A receptor that mediates the post-mating switch in Drosophila reproductive behaviour. Nature 451: 3337

[6] Tsuda M et al. (2015) Visualizing molecular functions and cross-species activity of sex-peptide in Drosophila. Genetics 200: 11611169

[7] Ellendersen BE, von Philipsborn AC (2017) Neuronal modulation of D. melanogaster sexual behavior. Curr Opin Insect Sci 24: 2128

[8] Feng K et al. (2014) Ascending SAG neurons control sexual receptivity of Drosophila females. Neuron 83: 135148

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