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ネッタイシマカAedes aegyptiの形質転換へのトランスポゾンpiggyBacの利用 博士2年 工藤 愛弓

2016/06/22 1:27 に Ayumi Kudo が投稿   [ 2016/06/22 5:29 に更新しました ]
 ネッタイシマカAedes aegyptiは熱帯地域に広く分布するカで、デング熱ウイルスDengue fever virusや黄熱ウイルスYellow fever virusなど危険なアルボウイルスの媒介者である。例えば、デング熱ウイルスの感染被害は毎年5000万件とも言われ、グローバル化に伴う未感染地域への感染拡大が懸念されている。ネッタイシマカのようなウイルス病の媒介者に対する防除は薬剤散布によって行われてきたものの、薬剤抵抗性の発達などにより、十分な効果を得られていない。そのような中で、遺伝学的な操作を行い、より効率的に防除を行うことの必要性が高まってきた。本セミナーでは、遺伝学的な操作ツールの一つであるpiggyBacトランスポゾンを用いたネッタイシマカの形質転換とその応用例について紹介する。

 昆虫における形質転換技術には様々なものが知られており、その中の一つがDNA型トランスポゾンを用いるものである。DNA型トランスポゾンはトランスポゼース存在下で、ゲノムから切り出されて、別の場所へと移動する能力を有する。昆虫で用いられているトランスポゾンは、Hermes, hobo, Minos, Mos1, P, piggyBacなどが知られており、その中でもpiggyBacは特に宿主範囲が広く、様々な昆虫で形質転換に用いられている(1)。さらに、piggyBacには一度挿入した遺伝子の痕跡(foot print)を残すことなく除去することができるという、他のトランスポゾンにはない特徴があり、遺伝子の機能解析に適している。ネッタイシマカでもpiggyBacを用いることができるかどうかを確かめるために、まずネッタイシマカ内におけるpiggyBacトランスポゼースの活性をプラスミド間の遺伝子移動を観察することで調べた。すると、遺伝子の切り出しおよび再挿入はキイロショウジョウバエなどと比べて同程度に行えることが分かった(2)。また、ネッタイシマカのゲノム内への遺伝子の挿入(3)、および生殖巣への遺伝子の挿入による形質転換系統の確立も行うこともできた(4)。上記に加えて、形質転換系統を用いた遺伝子の機能解析を行う上で重要になるのは、再移動活性である。宿主内に存在している内在性のトランスポゼースなどによって、挿入した遺伝子が移動しやすいと安定的な系統化は行えず、遺伝子の機能を精密に解析することが困難になるからである。そこで、遺伝子挿入後の再移動活性について調べられたが、piggyBacトランスポゼース存在下であっても、ネッタイシマカ内に一度挿入された遺伝子は再移動しないことが分かった(5,6)。ネッタイシマカにおけるpiggyBacの応用例としては、部位特異的な遺伝子導入を可能にするphiC31インテグレース技術の導入とそれを用いた、形質転換オス成虫の放飼による防除技術の開発や(7,8)、GAL4/UASバイナリシステムを利用した遺伝子の部位・時期特異的な発現制御技術の開発が行われた(9)。

 現在、形質転換ツールの開発とそれを用いたネッタイシマカの防除技術への応用は、wolbachiaを用いて蚊の体内でウイルスの増殖を抑えるという防除技術に取って変わられたようにも見える(Walker et al. 2011など)。だが、wolbachiaによる病原ウイルスの増殖抑制機構については、まだほとんど分かっていない。今後は、このような機構に関係する遺伝子を含めた、様々な遺伝子の機能解析を行うための高効率な形質転換ツールがより重要で必要不可欠なものになるものと予想される。

【引用文献】
1.   O’Brochta DA, George K and Xu H (2014) Transposons for insect transformation. Transgenic insects: Techniques and applications. 1-17.

2.   Lobo N, Li X and Fraser Jr. MJ (1999) Transposition of the piggyBac element in embryos of Drosophila melanogaster, Aedes aegypti and Trichoplusia ni. Molecular Genetics and Genomics 261: 803-810.

3.   Kokoza V, Ahmed A, Wimmer EA and Raikhel AS (2001) Efficient transformation of the yellow fever mosquito Aedes aegypti using the piggyBac transposable element vector pBac[3xP3-EGFP afm]. Insect Biochemistry and Molecular Biology 31: 1137-1143.

4.   Lobo NF, Hua-Van A, Li X, Nolen BM and Fraser Jr. MJ (2002) Germ line transformation of the yellow fever mosquito, Aedes aegypti, mediated by transpositional insertion of a piggyBac vector. Insect Molecular Biology 11: 133-139.

5.   Sethuraman N, Fraser Jr MJ, Eggleston P and O’Brochta DA (2007) Post-integration stability of piggyBac in Aedes aegypti. Insect Biochemistry and Molecular Biology 37: 941-951.

6.   Palavesam A, Esnault C and O’Brochta DA (2013) Post-integration silencing of piggyBac transposable elements in Aedes aegypti. PLoS ONE 8: e68454.

7.  Nimmo DD, Alphey L, Meredith JM and Eggleston P (2006) High efficiency site-specific genetic engineering of the mosquito genome. Insect Molecular Biology 15: 129-136.

8.  Fu G, Lees RS, Nimmo D, Aw D, Jin L, Gray P, Berendock TU, White-cooper H, Scaife S, Phuc HK, Marinotti O, Jasinskiene N, James AA and Alphey L (2010) Female-specific flightless phenotype for mosquito control. Proceedings of the National Academy of Sciences 107: 4550-4554.

9.   Kokoza VA and Raikhel AS (2011) Targeted gene expression in the transgenic Aedes aegypti using the binary Gal4-UAS system. Insect Biochemistry and Molecular Biology 41: 637-644.
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