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摂食行動と繁殖行動との匂いを介した相互作用 博士1年 工藤愛弓

2015/12/02 19:01 に Ayumi Kudo が投稿
  昆虫は一般的に、匂いをもちいて食料を探しあてる。例えばショウジョウバエは、腐敗した果物が発する匂いを感知することで、その果物へのアプローチが可能になる。また、ショウジョウバエにとって果物は食料であると同時に、メスとオスとの出会いの場にもなり、果物の上でフェロモンによって交信し交尾・産卵をおこなう。このように、フェロモンは食べ物の匂いと同所的に存在しており、異なる2つのタイプの匂いおよび、それらの匂いによって誘起される行動は自然条件下において相互に影響を及ぼしあっていると考えられる。本セミナーでは、これまで別々に研究がおこなわれてきた食べ物の匂いとフェロモンとの複合臭に関する研究をショウジョウバエを例に紹介する。

 キイロショウジョウバエDrosophila melanogasteのオスは、食べ物の匂いに加えて、同種他個体が存在する場合により誘引されやすい(1)。特に、オス成虫の抽出物に含まれるcis-vaccenyl acetate(以下、cVA)は、それ単独では誘引効果はないものの(2)、雌雄どちらに対しても食べ物の匂いに対する誘引活性を増加させる(3)。キイロショウジョウバエの近縁種であるDrosophila immigransとDrosophila phalerataにおいても、cVAと食べ物の匂いとが組み合わさった場合に誘引効果が増加することから、ショウジョウバエ属は集合するために食べ物の匂いとフェロモンとの複合臭をもちいるのが一般的であるようである(4)。このように、採餌場所と繁殖場所とを特異的な感覚経路によって協調させている神経生理学的なメカニズムの1例として、キイロショウジョウバエでは食料である果実などに含まれるphenylacetic acidやphenylacetaldehydeは、オス特異的な求愛行動を制御するFRUM発現嗅覚受容神経IR84aを活性化することが知られている(5)。

 一方、食べ物に対する要求性は各個体の栄養状態によっても変化し、満腹時に比べて空腹時には食べ物の匂いに誘引されやすい。しかしながら、cVAが食べ物の匂いに加わると摂食後のメスであっても食べ物に対する誘引性が高いまま維持される(6)。そこで、個体のエネルギー機能を制御するインスリン受容体をノックダウンしたところ、インスリンシグナル経路が部分的ではあるものの触覚葉におけるフェロモンの受容を制御していることが明らかになった。また、インスリンシグナル経路の変異メスでは体表炭化水素の構成成分の量や比率が変化し、オスに対する誘引効果が変化した(7)。つまり、食べ物の匂いに誘引された後の栄養状態は、インスリンシグナル経路からのフィードバックを通して、繁殖行動を制御しているのかもしれない。

 以上のように、食べ物の匂いとフェロモンに対する反応は交尾前隔離や種分化において重要である。よって、これら2つの異なる化学信号をつなぐ神経回路や摂食によるフィードバック調節は、性選択および自然選択のターゲットとなるため、種ごとの進化的背景を解明するのに役立つと期待される。

【引用文献】
  1.  Lebreton S, Becher PG, Hansson BS and Witzgall P (2012) Attraction of Drosophila melanogaster males to food-related and fly odours. Journal of Insect Physiology 58: 125-129.
  2. Schlief ML and Wilson RI (2007) Olfactory processing and behavior downstream from highly selective receptor neurons. Nature Neuroscience 10: 623-630.
  3. Bartelt RJ, Schaner AM and Jackson LL (1985) cis-vaccenyl acetate as an aggregation pheromone in Drosophila melanogaster. Journal of Chemical Ecology 11: 1747-1756.
  4. Hedlund K, Bartelt RJ, Cicke M and Vet LEM (1996) Aggregation pheromones of Drosophila immigrans, D. phalerata, and D. subobscura. Journal of Chemical Ecology 22: 1835-1844.
  5. Grosjean Y, Rytz R, Farine J-P, Abuin L, Cortot J, Jefferis GSXE and Benton R (2011) An olfactory receptor for food-derived odours promotes male courtship in Drosophila. Nature 478: 236-242.
  6. Lebreton S, Trona F, Borrero-Echeverry F, Bilz F, Grabe V, Becher PG, Carlsson MA, Nässel DR, Hansson BS, Sachse S and Witzgall P (2015) Feeding regulates sex pheromone attraction and courtship in Drosophila females. Scientific Reports 5: 13132.
  7. Kuo T-H, Fedina TY, Hansen I, Dreisewerd K, Dierick HA, Yew JY and Pletcher SD (2012) Insulin signaling mediates sexual attractiveness in Drosophila. PLoS Genetics 8: e1002684.
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