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性的対立を通した求愛給餌行動の進化 D3 小島 渉

2012/06/25 18:24 に Takashi Matsuo が投稿
2011.6.29 

昆虫やクモのなかには、交尾の際、オスがメスに餌を与えるものがある。カマドコオロギGryllodes sigillatusのオスは、精子の入った袋(ampulla)と、それを覆うゼリー状物質(spermatophylax)を、メスの体の外部に取り付ける(1)。交尾を終えたメスは、すぐにspermatophylaxを食べ、それを食べ終えると、ampullaを体から外す。ampulla内の精子がメスの体内に完全に移動するには、約50分かかる(1)。オスは、spermatophylaxをメスに与えることで、受精のための時間を稼ぐことができると考えられる(1)。そのため、より大きく魅力的な spermatophylax を作るオスほど、メスがampullaを除去するまでの時間を長引かせ、多くの精子をメスに送ることができる(2)。本種のメスは多回交尾するため、多くの精子をメスに渡すことは、オスが父性を獲得するうえで重要である(2)。一方、spermatophylaxは、栄養価の高い餌とはいえず、メスにとっての利益とはならない(3)。それにもかかわらず、なぜメスはspermatophylaxを食べるのだろうか。
 Gryllodes属の原始的な一部の種では、オスがampullaのみをメスに渡す。そのような種のメスに対して、カマドコオロギのspermatophylaxを、交尾直後に与えたところ、メスはすぐにそれを食べた。また、spermatophylaxを食べることで、やはりampullaの除去が遅延された。これらの結果から、カマドコオロギのオスは、メスがもともと持っている味覚のバイアスに便乗し、メスの好みに合うような成分を進化させたと考えられる(4)。spermatophylaxに含まれる遊離アミノ酸を分析したところ、必須アミノ酸の占める割合は低く、非必須アミノ酸であるプロリンとグリシンが多く含まれていた。プロリンとグリシンの混合物を含む人工飼料は、メスを長時間引き留めることもわかった(5)。つまり、spermatophylaxは、メスにとってあまり栄養にならない一方で、メスの食欲を刺激する魅力的な餌なのである。
 カマドコオロギのメスは、多回交尾を行い、多くの子を残そうとする。しかし、spermatophylaxに含まれる物質には、メスの再交尾を抑制するはたらきがある。カマドコオロギ のspermatophylaxを、spermatophylaxを作らない近縁種のメスに与えたところ、再交尾が抑制された(6)。また、グリシンを多く含む人工飼料を与えたときも、再交尾が抑制された(7)。一方、カマドコオロギのメスの再交尾は、同種のspermatophylaxによって抑制されることはなかった。つまり、カマドコオロギのオスは、メスの再交尾を抑制するために、グリシンを多く含むspermatophylaxを作るが、メスはそれに対する抵抗性を進化させている可能性が高い(6)。
 以上のことから、カマドコオロギのspermatophylaxや、そこの含まれるアンバランスなアミノ酸組成は、メスをだまそうとするオスと、だまされまいとするメスとのせめぎあいを通して進化してきたと考えられる(chase-away sexual selection:8)。

(1)     S.K. Sakaluk, Male crickets feed females to ensure complete sperm transfer. Science, 223 (1984), pp. 609-610
(2)     S.K. Sakaluk, Female control of sperm transfer and intraspecific variation in sperm precedence: antecedents to the evolution of a courtship food gift. Evolution, 50 (1996), pp. 694-703
(3)     M.W. Will, S.K. Sakaluk, Courtship feeding in decorated crickets: is the spermatophylax a sham? Animal Behaviour, 48 (1994), pp. 1309-1315
(4)     S.K. Sakaluk, Sensory exploitation as an evolutionary origin to nuptial food gifts in insects. Proceedings of the Royal Society B, 267 (2000), pp. 339-343
(5)     S. Warwick, K. Vahed, D. Raubenheimer, S. Simpson, Free amino acids as phagostimulants in cricket nuptial gifts: evidence for the ‘Candymaker’ hypothesis. Biology Letters, 5 (2009), pp. 194-196
(6)     D.G. Gordon, S.N. Gershman, S.K. Sakuluk, Glycine in nuptial food gifts of decorated crickets decreases female sexual receptivity when ingested, but not when injected. Animal Behaviour, 83 (2012), pp. 369-375
(7)     S.K. Sakaluk, R.L. Avery, C.B. Weddle, Cryptic sexual conflict in gift-giving insects: chasing the chase-away. American Naturalist, 167 (2006), pp. 94-104
(8)     B. Holland, W.R. Rice, Chase-away sexual selection: antagonistic seduction versus resistance, Evolution, 52 (1998), pp. 1-7
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