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“最強のオス”は存在するか? ~メスによる性選択とオス間闘争の二律背反~ 修士課程2年 安藤 優樹

2018/11/21 22:09 に Yuki Ando が投稿   [ 2018/11/21 22:12 に更新しました ]

多くの昆虫で縄張り行動が存在することは古くから知られている。このような種において、縄張り行動は性的に未成熟な若い成虫間に見られる。縄張りの防衛に成功したオスは、侵入者による干渉を最小限に抑えるとともにメスと交尾できる確率を上昇させると認識されてきた[1]。さらに2000年代に入ってからは、一部の双翅目昆虫において羽化してからの数日間をどのような環境で過ごしたかという条件そのものによっても交尾率が変動することが報告されている。Dukasらは、広さやエサの量、装飾などの条件を変えた複数のケージを用意し、ここで羽化直後のキイロショウジョウバエを数日間飼育して行動実験を行った。その結果、広い空間で過ごした個体ほど、オスでは交尾成功率が高く、メスでは長時間の求愛を受けることを発見した[2]。さらにFleischerらは、ミバエの一種Anastrepha ludensを用いた同様の実験により、オスは羽化後に過ごした空間の広さ、メスは産卵場所となる果実やそれをつける樹木の存在が交尾率を上昇させることを見出した[3]。さらに、Hingleらはシュモクバエの一種Cyrtodiopsis dalmanniを用いた実験で、質の良いエサを食べたメスは、それ以降そのようなエサが存在しなければ交尾をしにくくなることを発見した[4]

これらの研究例をみると、広くて良質なエサが手に入るような場所を縄張りとして確保できるオスは、交尾において極めて有利であると考えられる。では、縄張りを巡る闘争において有利な形質を持つオスは、そのまま交尾においても有利な、いわば“最強”の個体となり得るのだろうか?

 オスの闘争に関わる形質と交尾行動の関係についても、いくつかの昆虫において研究が行われている。Suzakiらは、ホソヘリカメムシRiptortus pedestrisにおいて、武器形質であるオス後脚のサイズと求愛行動の質や交尾率に負の相関があることを見出した[5][6]。またKiyoseらは、オオツノコクヌストモドキGnatocerus cornutusを用いた実験で、大きな大顎を持ち闘争に強いオスと交尾したメスは生涯産卵数や寿命が減少することを確認した[7]。さらにCandolinは、ミズムシ(水生カメムシ)の一種Sigara falleniにおいて、前脚の突起が小さいオスは闘争に強い反面交尾率が下がり、逆に突起が大きいオスは闘争に弱いもののメスに求愛を受け入れられやすいことを確認した[8]

 以上のことから、昆虫の世界には「闘争に打ち勝ち、良質な縄張りを獲得することで交尾しやすいメスと出会いやすくなる」「一方で、闘争に強いオスは交尾成功率が低くなる」という二律背反が存在することが窺える。これについてCandolinは、どのような形質が交尾に有利となるかは状況によって変わり、それゆえ種内の遺伝的多様性が維持されると説明している[8]

 しかし、これらの研究例では、全て闘争と求愛に使われる部位がそれぞれ独立している種で実験を行っていることに注意すべきだろう。すなわち、闘争と求愛を同一の部位で行う種においては縄張りの確保と交尾成功がより密接に結びついており、闘争の強さがそのまま交尾成功率の高さに直結することもあり得るということである。

闘争の強さと性選択の関係について実験を行う際は、研究対象としている種がどのような闘争と求愛を行うのかという基本的な性質について十分に理解しておかなくてはならない。

 

[references]

[1]       S. M. Fitzpatrick and W. G. Wellington, “Insect territoriality,” Can. J. Zool., vol. 61, no. 3, pp. 471–486, Mar. 1983.

[2]       R. Dukas and A. Ø. Mooers, “Environmental enrichment improves mating success in fruit flies,” Anim. Behav., vol. 66, no. 4, pp. 741–749, Oct. 2003.

[3]       F. Diaz-Fleischer, J. Arredondo, and M. Aluja, “Enriching early adult environment affects the copulation behaviour of a tephritid fly,” J. Exp. Biol., vol. 212, no. 13, pp. 2120–2127, Jul. 2009.

[4]       A. Hingle, K. Fowler, and A. Pomiankowski, “The effect of transient food stress on female mate preference in the stalk-eyed fly Cyrtodiopsis dalmanni.,” Proceedings. Biol. Sci., vol. 268, no. 1473, pp. 1239–44, Jun. 2001.

[5]       Y. Suzaki, M. Katsuki, T. Miyatake, and Y. Okada, “Male Courtship Behavior and Weapon Trait as Indicators of Indirect Benefit in the Bean Bug, Riptortus pedestris,” PLoS One, vol. 8, no. 12, p. e83278, Dec. 2013.

[6]       Y. Suzaki, M. Katsuki, T. Miyatake, and Y. Okada, “Relationships among male sexually selected traits in the bean bug, Riptortus pedestris (Heteroptera: Alydidae),” Entomol. Sci., vol. 18, no. 2, pp. 278–282, Apr. 2015.

[7]       K. Kiyose, M. Katsuki, Y. Suzaki, and K. Okada, “Competitive males but not attractive males reduce female fitness in Gnatocerus cornutus,” Anim. Behav., vol. 109, pp. 265–272, Nov. 2015.

[8]       U. Candolin, “OPPOSING SELECTION ON A SEXUALLY DIMORPHIC TRAIT THROUGH FEMALE CHOICE AND MALE COMPETITION IN A WATER BOATMAN,” Evolution (N. Y)., vol. 58, no. 8, pp. 1861–1864, Aug. 2004.


 

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