Moth sex pheromone in aroma chemicals.

ガ類のメスが分泌する性フェロモンの研究はフェロモン化合物が有する強力な生理活性、すなわち同種オスを微量の化合物で種選択的に誘引する性質を圃場での害虫防除に応用することを目的に端を発しています。1959年、カイコガ(Bombyx mori)で初めて性フェロモン化合物であるボンビコールの化学構造が明らかとされてから、現在では微量分析技術の発達に伴い、600種を超えるガ類種から性フェロモンが同定されています。

1990年を過ぎる頃になると次の興味として、フェロモン生合成メカニズムに注目が移りフェロモン産生器官(フェロモン腺)における遺伝子のクローニングと異種細胞系での発現、続く酵素の機能解析が行われ、様々なガにおける生合成酵素の選択性と種類の豊富さが明らかとなります。一方で性フェロモンを受け取るオス側では、1950年代から蓄積されてきた触角の電気生理学的・解剖学的知見に加え、近年フェロモン受容に関与する分子の機能同定が進められ高感度かつ高選択的なフェロモン受容の分子機構に光が当たるようになってきています。

現在ではフェロモン受容によって引き起こされる、メスへの定位行動発現のもとにある神経基盤も明らかにされつつあり、フェロモンを介したコミュニケーションがヒトの感覚で言う「匂い」のメカニズムと近いらしい事が分かって来ました。

応用昆虫学研究室では、ガ類の性フェロモンを生殖隔離に直接関わる生理活性物質であることから、生物種の分化を物質レベルで解明するための手がかりと捉えています。我々は「化合物」と「生合成メカニズム」、更には「配偶行動」の多方面から研究を進め、ガ類種が構築して来た「匂いのコミュニケーションシステム」の理解を深める事を目指しています。

担当) 藤井 毅