『どんぐり』を探して

 小石川植物園は、寺田寅彦の随筆『どんぐり』の舞台にもなっています。肺病を患い数日後には高知での療養に出発する妻(夏子夫人)と植物園で過ごしたつかの間のひとときが、淡々と、しかし精緻に綴られた短編です。

 もう3月末なので二人の訪れた日とは一月以上遅れていましたが、せっかくなので”聖地巡礼”しました。

植物園に入ると、二人はまず「広いたらたら坂」を登ります。

坂を上がって左に折れると大きな温室が見えてきます。寅彦に「今少し延びたら、この屋根をどうするつもりだろう」と心配されていた巨大な椰子は、やはり改築に伴って撤去された(?)ようです。少し残念。

温室の前ではキタテハが日光浴をしています。

温室を出た二人は池の方へと下っていきます。「崖を下りる」と表現されているにしては比較的緩やかな傾斜です。病人の体を労るがあまり、崖にも思えたのかもしれません(さすがにこれは深読みか・・・)。

“崖”を舞う越冬明けのキタキチョウ。

 物語の終盤、植物園を一周し終えるタイミングになってやっと「どんぐり」は登場します。寅彦が「なんの見るものもない」と出口に向かうのと対照的に、「おや、どんぐりが」と夫人が熱心に拾い始めます。

 私も一緒になって探してみました。が、一月遅れだったこともあり多くは土に埋もれてしまっていたのか、なかなか見つかりません。10分程度歩き回ってやっと見つけました。周囲の木を見渡すに、夏子夫人の拾っていたのはアカガシのどんぐりだったようです。

読んでいて少し引っかかるのは、二人のどんぐりへの熱量の差がやけに誇張されて描かれているところです。もしかすると、彼はどんぐり拾いのタイミングで初めて、貴重な一日を終わらせたくない夏子夫人の思いに気付いたのかもしれません。

2024.3.27 Kai Amino