オス間のせめぎあいが求愛行動の進化を促進する?

精子置換、およびそれに対抗した再交尾抑制はいずれも交尾の後に起こる現象です。しかもそれはオスとオスの間に生じる相互作用であり、オスとメスの間で行われる求愛行動とは何の関係もないように思われます。

キイロショウジョウバエでは、精子置換が起こるせいであとから交尾したオスの子供の割合が多くなるものの、先に交尾したオスの再交尾抑制によって実際にはあとから交尾することは難しくなっています。再交尾抑制の効いている数日の間に、先に交尾したオスの精子を使って産卵が行われることで父性が守られているのです。いわば、後から交尾するオスの精子置換という技が再交尾抑制によって封じられている状態です。

このような状況下では、再交尾抑制を打ち破るようないかなる手段の進化もあとから交尾するオスにとっては適応的であると考えられます。

テナガショウジョウバエのオスは、Leg vibrationという特殊な求愛行動を行います。Leg vibrationを繰り出すためには長い前脚も必要で、形態と行動が協調して進化するというハードルの高いプロセスを経たことが推察されています。

しかし、それにしては奇妙なことに、これまでの実験ではテナガショウジョウバエのメスはLeg vibrationされなくても交尾を受け入れることが良くあることがわかっていました。無くてもいいものがなぜ高いハードルを越えて進化できたのかが、ずっと謎のままでした。ただ、これまでの実験ではメスはすべて未交尾のものを使っており、既交尾メスを使った実験はやったことがありませんでした。

そこで既交尾メスに対するLeg vibrationの効果を調べたところ、なんと既交尾メスと再交尾するにはLeg vibrationがほぼ必須であることがわかりました。つまりLeg vibrationは、先に交尾したオスの再交尾抑制を打破するために、後から交尾しようとするオスが進化させた新しい求愛行動である可能性が出てきたのです。交尾後のオス間の争いが、交尾前の求愛行動の進化を促したのでしょうか?