サテライト行動とsignal interception

メスをめぐってオス同士が争い、なわばりを形成する動物では、勝ったオスがメスと優先的に交尾することができます。ところが、負けたオスもすんなりあきらめるとは限りません。闘いを避けながらもなわばりの中に潜み、あわよくばメスを奪って交尾しようとする者も現れます。これをサテライト行動と呼び、劣位オスの採用する代替配偶戦術であると考えられています。

テナガショウジョウバエのオス同士もなわばりを巡って闘争しますが、負けたオスはすんなり飛び去らず、しぶとくその場に居座っていることが良くあります。優位オスに脅されても、立ち向かうまではしないものの、「まあまあおさえておさえて・・・」といった風情で横を向いて餌を食べ続けたり、ぐるぐる逃げ回ったり、死角に入ってじっとしていたり。これは典型的なサテライト行動で、メスが現れると劣位オスも求愛に参加しようとします。しかし、優位オスに妨害されてうまくいかないことが多いようです。結局、優位オスが求愛するのを指をくわえてみている状態になってしまいます。これだといくら粘ってその場に残っても交尾機会など訪れず、サテライト行動に適応的意義など無いように見えますが・・・

実は劣位オスは最後にして最大のチャンスを狙っているのです。求愛していた優位オスが満を持してleg vibrationをした途端、それまで知らぬそぶりでじっとしていた周辺の劣位オスたちが一斉に、すごい勢いで走り寄ってきてメスにとびかかります。気づいた優位オスがあわてて追い払おうとしても、今度ばかりは一歩も譲らず、狂ったようにアタックしてちゃっかり交尾してしまいます。その豹変ぶりは別人?のようです。

調べたところ、劣位オスたちはleg vibrationから生じる音を聴きつけて駆け寄ってくることが分かりました (Setoguchi et al. 2015 Proc. R. Soc. B)。leg vibrationをされたメスは交尾を受け入れる確率が高まっています。しかも、leg vibrationを繰り出すには優位オスはメスの前に回らなくてはなりません。メスの交尾器側はがら空きになってしまうので、奪うには絶好のチャンスなのです。

leg vibrationはメスの体に直接振動を伝えるある種のシグナル(信号)だと考えることができます。テナガショウジョウバエのサテライトオスたちは、この求愛シグナルを異なったモード(音)で傍受して、割り込んでいるということになります。したがってこれはsignal interceptionの特殊な例であるということができるでしょう。leg vibrationはメスの感覚バイアスを利用した求愛行動でしたが、今度はそれが意図しない傍受者(サテライトオス)に利用されてしまうとは・・・