社会的条件による求愛行動の変化

動物の行動は他個体の存在により影響を受け、変化します。中でも求愛行動は、ライバルがそばにいるかいないかでずいぶん変わることが知られています。多くの動物で、単独で求愛しているときに比べてライバル存在下では 1.より熱心に求愛を行う(ライバルに負けないようにする)、あるいは反対に 2.求愛を控える(無駄なエネルギー消費を抑える) といった変化が生じることが観察されています。ショウジョウバエでは、他のオスと同居していた経験を持つオスは交尾持続時間が長くなることが知られています。これは、ライバルよりも少しでも多くの精子を送り込むことで、交尾後競争で優位に立つ効果があると考えられています。

テナガショウジョウバエでは、leg vibrationの音を聴きつけたライバルオスが駆け寄ってきてメスを奪うというサテライト行動が見られます。つまり、ライバル存在下でleg vibrationをやってしまうと大変危険なわけです。一方で、leg vibrationそのものにはメスの交尾受容性を上げるという効果があります。つまり、leg vibrationをやった方がメスに受け入れられる可能性が高くなるのです。このジレンマに、テナガショウジョウバエのオスはどう対処しているのでしょうか?

そこで、メスが1匹入っている観察容器に、オスを1匹だけ入れたときと2匹同時に入れたときで求愛行動がどのように変化するか調べました。その結果、他のオスがいるときにはleg vibrationを使う割合が減ることが分かりました。つまり、メスを奪われる危険性があるので、地味で効果が薄いかわりに他のオスに気づかれにくくて安全な求愛行動を採用したのです。「こっそり」求愛するわけですね。Leg vibrationをやらないことで交尾成功率は下がりますが、それでも求愛自体をやめるよりはまし、という点で理にかなっていると考えられます。このように、ライバルの有無という社会的条件によって「求愛行動をしなくなる」のではなく「求愛のやり方を変える」という事例は大変珍しく、ほかにはイモリの仲間で1例知られているだけです。でももしかしたら、「求愛行動をしなくなる」と思われているケースでも良く調べると実は「こっそり求愛していた」ということが明らかになる可能性もあります。なにしろライバルに気づかれないほどこそこそしていれば、観察者も見逃したとしても不思議はないですから。