東大害虫学教室の思い出 草野忠治

半世紀前に害虫学を専攻したときのことが走馬灯のように思い出される。当時は、指導される先生方は若く、活気を感じたこと、アメリカの研究者と競争する研究が行われていたこと、害虫の化学的防除は農業生産分野より大きく期待されていたことから、この学問分野に将来性があると思い、当教室を専攻することとなった。卒業研究は自分の発想に基づくテーマは無かったので、山崎先生より提示された課題の中から選択しました。すなわち、「2,3の殺虫剤のアズキゾウムシカタラーゼ作用に及ぼす影響」であった。9種類の殺虫剤のうち、4種類でカタラーゼ活性が、in vitroで若干の抑制効果があった。大きな成果は得られなかったが、当教室で昆虫の酸化酵素の研究をするのは初めてのこともあって、この酵素の測定法を取得できたことは、私にとって大きな収穫でした。なお、この実験は低温で行うので、実験のたびに、山崎先生よりお金をいただいて、氷を買いに行ったことが思い出される。さらに、もし他学科の生化学系の教室に派遣されればもっと充実した仕事ができたかもしれないと思っています。害虫学教室でのもう一つの思い出は二年時の後期よりセミナーに参加したことでした。卒論に関連した英語の論文の内容を紹介し、質問に答えるものでしたが、専門分野の英文の論文を読むことに苦労したことでした。白熱した議論のあったことが思い出されます。

これらのことを通して、昆虫生理学に大変興味を持ちました。ことことが原動力となって、その後モンシロチョウの味覚生理の研究をすることとなりました。

卒業一年後に、東京教育大学応用動物学研究室に奉職し、三坂和英教授の指導の下に、クマリン系殺鼠剤の作用機構について、主としてハツカネズミを用いて始めました。これが応用動物学の研究のスタートとなりました。この研究の推進にあたり、楢橋先生の紹介で東大獣医学科の薬理学教室の浦川先生より薬理学実験法の指導を受けました。これは本研究の遂行に大変役立ちました。

今日まで、何とか研究を続けることができたのは、山崎先生、楢橋先生、浦川先生をはじめ、当教室の皆々様の激励、指導によるものであり、深く感謝しております。害虫学教室の一層のご発展をお祈りいたします。